待たせた上に巻き込むな
「ただいま検査中なのでこちらで暫くお待ち下さい」
時間を指定されて地縛霊物件の所有者が入院している病院に行ったら、何やらVIP向けの部屋の脇にあった応接スペースみたいな所に案内された。
確かに病院にいると病院側の都合で検査されたりあちこち行かされたりするみたいだけど、こんな部屋を使う程のVIPなら検査の時間もそれなりに前もって知らされているんじゃないの??
ウチらが来る事分かっているんだから検査の時間をずらすなり、ウチらに連絡を入れるなりすればいいのに。
『頼まれて来てるのに感じ悪い〜』
魔道具カードの念話で碧に愚痴る。
『本当にね。
誰が会いに来るか、気になる所だけど』
碧が内側に開いた扉を見ながら伝えて来た。
うん?
誰かがウチらと話す為にわざと検査の時間に約束をぶつけたって事?
あれだけ『遺族が聞いて喜ぶ様な言葉は無い』って言ったのに、オブラートでがっつり包んで嘘をつけって要求してくるつもりかね。
ふざけてるね〜。
何でこっちが言うことを聞くと思ってるんだろ?
「やあ、君たちがあの悪霊を退治してくれた退魔師か。
態々時間を取ってくれてありがとう。
今回依頼を手配させて貰った門沢 透だ」
扉から入って来たのは初老のおっさんだった。
高級そうなジャケットを着ているがネクタイはしていない。
お偉いさんは政治家とか政府高官にでも会うんじゃない限り、今時ネクタイなんてしないのかな?
「こんにちは。
約束の時間には遅れていないと思ったのですが、どうも検査の時間にぶつかってしまった様ですね。
後どのくらい掛かるのでしょうか?
予定があるので遅くなるなら後日に変更していただきたいのですが」
碧が立ち上がりながら挨拶がわりにこちらの要求を突き付けた。
名前を言っていないが・・・まあ、自己紹介しなくても向こうはウチらが誰だか分かっている筈だしね。
ちなみに、退魔協会に確認したところ、依頼主には退魔師の名前を教える習慣らしい。
流石に電話番号は教えないらしいが、名前も教える必要なく無い?
どうせ仕事の依頼は退魔協会経由でしか受けないんだから。
下手に名前を覚えられても面倒な気がするんだが・・・家に来る業者の人なんかが皆名刺を差し出す事を考えると、名前を知らせないって言う選択肢はないのかな?
直ぐにも帰りそうな素振りの碧に慌てたのか、おっさんはソファに座る様にせかせかと手を動かしながら近づいて来た。
「待たせてすまない、あと10分程度で終わると思うからちょっとだけ待ってくれ。
今、お茶を準備させているところだ」
10分で本当に検査が終わるんかね?
何の検査をしているのか知らないけど。
直ぐに終わる血液とか血圧検査だったら病室でやるだろうし、レントゲンとかCATスキャンとかだったらあれってそれなりに時間が掛かるんじゃないの?
まあ、10分程度と言われてお茶を勧められているのに帰る訳にはいかないけど。
おっさんの言う通り、席に座ったらほぼ直後に扉が開いて秘書っぽい男性がお茶を持ってきた。
考えてみたら病院の入院棟でのお茶って何で準備しているんだろ?
自動販売機みたいのから来るのか、ちゃんと急須に茶葉で淹れているのか、ちょっと気になる。
自動販売機の熱いお茶って熱過ぎて苦手なんだよねぇ。
そう思いつつ受け取ったお茶は、程よい温度で香りも良かった。
おや。
急須で本格的に淹れたお茶っぽい。
男性でもしっかりお茶の淹れ方を知っているんだね。
こう言うのって女性に任されがちだと思ってたよ。
「今回の霊に件に関しては父も非常に心を痛めていてね。
入院して気が弱っているのもあって色々と考え込むことが増えた様なんだ。
ちなみに・・・その悪霊は意外と理性的だったと報告にあったが、どんな事を言っていたのかな?」
お茶を手に取りながらおっさんが聞いて来た。
「何度も繰り返すのは時間の無駄ですし、あの地縛霊の亡くなった時期を考えると所有者である弟さん以外が個人的に関係があったとも思えませんので、弟さんがお戻りになったら併せて話しますね」
碧がばっさりとおっさんのそれとない質問を切って捨てた。
まあねぇ。
向こうが聞きたい事をでっち上げるつもりは無いって言ってあるのに、ここで何を言われたか話して編集を強要されても面倒だ。
「そうか・・・。
こう、一族の将来の為にも、父をしっかりと支えている私の様な人間にもっと積極的に資産の運用に関与すべきだと言う様な事は言っていなかったのかな?
良かったら今回ご足労頂いたお礼に後でそれなりに報酬を差し上げるが」
おいおい。
遺産分割とかその前の権限移譲に前向きな良い言葉を入れさせる話を持ちかける為に、態々検査の時間にウチらを呼び出したの??
迷惑なんだけど!!