チクるのとは違うよ〜
「じゃあ、いくわよ?」
碧が祝詞を唱え始める。
既に半ば心の整理は出来ているっぽいから私からの軽い補助程度でも昇天出来そうだけど、折角なら碧に送って貰う方が良いだろう。
碧の祝詞に合わせて徐々に部屋の空気が煌めいてきたと思ったら、やがてふわぁと柔らかい光と共に女性の霊が昇天していった。
相変わらず綺麗で優しい除霊だよねぇ。
メインの仕事が終わったので改めて家の中を探知してみたら、あの破落戸2人組は消えていた。
護符を身に付けていると昏倒用魔道具カードの効果時間も短縮されるっぽい。
今後の参考にしておこう。
今回は実害は無かったし面倒だったから逃げられても良いつもりで実験も兼ねての放置だったが、これで一つ知見が増えたな。
「お疲れさま〜。
あの破落戸は逃げちゃったみたいだけど、どうする?
黒幕を確認したいなら所有者に『除霊の挨拶』なり『霊の最後の言葉を伝える』とでも言って会いに行けば次男に会うことも出来ると思うけど?」
残念ながら、次男が犯人じゃ無かった場合は真犯人を探れるような便利なチート能力は無いけどね〜。
悪霊・・・と言うか地縛霊さんに関しては未解決のまま秘されてきた殺人の情報も何もなかったんだから、ウチらの邪魔をしたかったのは相続税の節税目当てな親族の誰かだろう。なので所有者に近い親族を手当たり次第に接触して精神を読めば、黒幕が誰かは比較的直ぐに分かると思うけどね。
「まあ、どうせ金持ちのみみっちい節税目的な行動でしょ?
証拠も無いから大した事が出来る訳でも無いし、良いよ。
更に何かやってくるようだったら嫌がらせをがっつりするけど」
碧がニヤリと笑いながら応じた。
そうなんだよねぇ。
片っ端から親族連中に触れて精神を読んで私らを襲わせた犯人を見つけ出した所で、力を使って読み取った情報だけじゃあ迂闊に田端氏へ告発も出来ないし、ウチらが怪我もしていないから被害も実質ゼロだし。
まあ、地縛霊さんの除霊を邪魔しようとしたって所有者にチクって、法定遺留分だけしか相続できないように唆すのは可能かもだけど・・・そこまでやるとマジで恨まれるかも知れないしねぇ。
何千万円とか何億円も相続できる筈の遺産を期待していた場合、下手をしたらそれを見込んで借金していた可能性もあるし、ここで相続税で遺産が減るどころかご老人を怒らせてゼロになったりしたら将来設計が滅茶苦茶になって首を吊る事態になりかね無い。
ウチらがそれで悪霊に呪われるような事になったら面倒だ。
直ぐに撃退できるけど、ちょっと気分が悪いからね。
遺産なんて、死んでいく人間の子孫繁栄の願いを満たす為のエゴ混じりな『権利』なだけであって、貰う側の『権利』じゃあないと思うんだけど、子供の頃からあって当然だと思っていた親や祖父母の資産って『当然の権利』だと思っていて受け取れないと狂乱しちゃう人もそれなりにいるからねぇ。
前世の貴族とか王族には親の資産どころか権力までもを自分の権利だと思って親や家族を弑逆しちゃう奴も居たが・・・まあ、今世でも遺産狙いの親殺しはそれなりにあるか。
下手に殺すと利害関係者って事で集中的に捜査されてバレるし、待っていればそのうち親世代は死ぬと思って手を出さない事が多いんだろうけど。
ある意味、親よりも配偶者の方が離婚で財産分割を避ける為に殺すケースが多いかな?
配偶者じゃあ死ぬのを待っても時間切れになりそうだし、離婚で係争している場合だったらのんびり待っていると資産を大量に持っていかれるかもだしね。
日本の場合はそれに加えて、相手が合意し無いと中々離婚できないって言う問題もあるらしいし。
まあ、それはともかく。
節税目的(多分)だけで人を襲わせちゃう様な相手だったら、ウチらのせいで遺産を貰えなかったら絶対に逆恨みするだろう。
ウチらのせいって言うか自業自得だけど。
「そうだね〜。
面倒な事にならないよう、何も言わなくて良いか。
意外と除霊そのものはストレスじゃ無かったし」
「退魔協会には知らせるけどね。
こう言う妨害は記録しておいて、次回からの増額要因にするらしい」
笑いながら碧が教えてくれた。
マジか。
まあ、親族が邪魔しまくるような案件だったら確かに報酬を値上げしていかなきゃやってらんないか。
その方がウチが直接チクる感じじゃなくって、丁度いいね。