加害者がまだ生きてるかもね?
「でも、後ろから殴られるなり薬を盛られるなりするのと悪霊の逆襲って違うじゃん。
どう考えても退魔師を相手にして破落戸に悪霊のフリをさせるのは無理があるでしょ?」
私の台詞を聞いた碧が呆れたように返す。
「そうなんだよねぇ。
アホすぎて信じがたいんだけど・・・ちょっと待って」
取り敢えず、更に深く襲撃者の精神を探索して記憶を確認する。
う〜ん、電話と郵便のやり取りだけで、直接依頼主に会っていないのか。
電話の声なんて変えられるし、電話である時点で響きが違うし、相手が本当に名乗った名前の人間なのかなんて確実ではないよね。
と言うか、別に所有者の次男と付き合いがあった訳でも無いみたいだし、本人の声そのものも知らないか。
襲撃者の記憶にあるのは、電話で私ら(と言うかこの家に来る退魔師)を後ろから襲って目撃されることなく意識を奪い、玄関の外に放り出しておけと言う依頼。
この悪霊憑きの家の事はそれなりに業界でも知られているのか、ちゃんと悪霊避けの護符も提供すると言われていた。
私書箱に宛先人名無しな郵便で受け取ったのがここの地図と裏口の鍵、護符、および私らの名前。
ウチらの名前って依頼主の方に連絡行くのかね?
向こうが会うつもりがないなら個人情報を与える必要もない気がするが、信用を得る為に必要なのかな?
退魔協会が依頼主側に教えていないとしたら協会内からの情報漏洩だけど。
前金の支払いは銀行ATMでの現金振込だから信頼出来る振込人の詳細は無い。
結局、所有者の次男だと言う証拠は特には無いな。
電話で名を名乗るだけなら誰にだって出来る。
この護符をどこで入手したのか調べれば分かるかもだけど。
「これってどこから入手されたのか、調べられると思う?」
男の胸ポケットを漁って護符を取り出して碧に見せる。
機能は中々だが有効期限は一週間程度と短いので、ある意味目的以外の使い方を出来なくしてある。
「通し番号は無いからどっかの退魔師から個人的に入手したモノっぽいね。
偶然作成者に会うとか、退魔協会の職員が力の特徴を覚えていて作成者を答えてくれない限り、難しいかな」
護符を裏返して角を日にすかして確認した碧が答える。
ほう。
退魔協会で売る符って通し番号が透かしで入っているんだ?
どうやって作成済みの符に透かしを入れるのか興味があるが・・・取り敢えず襲撃者は言われた知識以外は無いっぽい。
後で護符から作成元へ辿れないか、実験してみよう。
退魔協会に登録された全退魔師の魔力の籠ったサンプルでもあれば調べようもあるんだけどなぁ。
去年受け取った誓約書の血印で一致するのがないか一応確認してみよう。
あれは多分殆どが職員とその親族だろうから、あまり期待は出来ないけど。
「取り敢えず、電話で依頼を受けた際に名前を聞いただけみたいだから、本人かどうかは不明だね〜。
ATMでの現金振込だから銀行の防犯カメラに写った人間が顔見知りじゃない限りそっちもあまり期待できないし」
「現金振込!?
スイスとかバハマのオフショアな銀行経由の振込じゃないんだ??」
碧が驚いた様に聞き返す。
「100万弱だから9万5千円を10回に分けてなんて振り込むなんて面倒なことをする羽目になっても、現金振込の方が楽みたい?」
オフショアの怪しげな銀行に口座を既に持っていない場合、ヤバい依頼をする必要が突然生じると暗号資産か10万円弱の現金振込かになるんだろうねぇ。
まあ、現金を宅急便なりメール便で送りつけるって言う手もあるんだろうけど。
「・・・なんか金持ちのやる事にしてはみみっちいね。
もしかして悪事慣れしてないのかね?」
碧が首を傾げた。
「それでも破落戸に連絡は取れるぐらいのコネはあるっぽいけどね」
普段は何かの組織の一部として後ろ暗い事をやっていて、人は知っているけど支払い手段が無いって事なのかね?
暗号資産ぐらいだったら比較的簡単に手配出来そうだけど。
それとも日本の破落戸は暗号資産での支払いを受け入れる人間がまだ少ないのだろうか?
「取り敢えず、こいつは玄関先に転がしておいて、先に悪霊から情報収集と除霊をしようか」
暫し考え込んでから、碧は肩をすくめて悪霊の気配がする方がを指して提案した。
「だね〜。
そっちの方が何か分かりそう」
悪霊なんて、基本的に被害者なのだ。
比較的新しい悪霊なら加害者がまだ生きている可能性が高いし、ちょっと色々聞いてみよう。