半分冗談だったんだけどなぁ。
取り敢えず、破落戸どもが倒れていた位置から考えてアイツらは車の中に隠れて私たちを襲おうとしていたと思われると伝え、私らは帰ることになった。
単なる簡易的な被害届だけならまだしも、なんかよく分からない宝石展の泥棒対策の話を聞くとなったら時間がかかりそうだから、ちゃんと寝てからにしましょうと主張したのだ。
という事で。
翌朝11時に私たちは警視庁の3階奥にある小さめな会議室に来ていた。
「宝石展が狙われているかどうかなんて、どうやって分かるんだろうね?」
漫画じゃあるまいに、泥棒が予告状を出すなんて事はないだろう。
テロリストの爆破攻撃とかだと興奮した下っ端が『近いうちに神の裁きが降るだろう』的な書き込みをSNSとかにするせいである程度前兆が分かる事もあるらしいが、泥棒がそう言うアホを現実にやるとは思えない。
はっきり言って、泥棒にとっての最適解は盗んだことすらバレない様に模造品で入れ替える事なんじゃないかね?
まあ、そこまで品質の高い模造品なんて入手するのも難しいだろうけど。
「う〜ん、もしかしてダークウェブ上でどっかの金持ちがその宝冠とかの買取り希望の提示でもしたとか?」
碧が応じる。
「ダークウェブってあの犯罪組織とかが使う地下組織っぽいネット?」
なんか時々ダークウェブ上の違法取引サイトの運営者が逮捕されたってニュースを見るが、ダークウェブそのものが無くなったという話は聞かないから、一つの運営者を逮捕しても他の違法サイトは閉鎖出来ない非合法ネットワークなんだろう。
まあ、前世だって裏組織とかはどの国にもあったし、この世界だってネットで匿名性を高くして利便性を上げたとは言え、非合法な売り手と買い手の集まりはどの時代のどの国でも存在したんだろう。
「多分?
よく日本人のメールアドレスのパスワードとかも1件50円ぐらいで大量に売り出されているとかなんかニュースに出るじゃん?
そう言うところでその宝冠とやらを買うぞ〜って提示が出てるんかも?」
碧が肩を竦めながら言った。
「それって泥棒側は大量に押し寄せて内部闘争的に邪魔し合いそう。
つうか、今時宝冠なんて何に使うんだろうね?
昔の人より現代人の方が体が大きいって言うし、古い歴史があるやつだったら下手したら頭に入らないんじゃ無い?」
前世は王制だったから宝冠は王座の簒奪の際に正統性を主張するために必要だった場合もあるし、そうでなくてもどっかの国を滅ぼして新しい国を建国する際に新しい王冠のベースにする為にあったら便利かもだったが・・・地球じゃあねぇ。
宝冠なんて何に使うんかね?
「どうだろうね?
歴史がある宝冠なんかだったら個別の宝石と貴金属の総合価値より歴史的背景が重要なんだろうからバラして売れないだろうし、どっかの宝石卸かなんかが綺麗な宝石を集めて作った新しい宝冠だとしたらたまに王族とか皇族の成人式とか結婚式なんかの時にティアラを頭に載せてるって話だけど・・・そう言うのも先祖代々伝わるのを使いそうだよね」
碧も私の言葉に頷く。
よう分からん。
どちらにせよ、多数の泥棒が来るともちょっと信じ難いんだけど。
ダラダラ無駄話しながら待っていたら、5分ほど約束の時間から送れて会議室の扉が開いた。
はっきり言って10分待って来なかったら『予定があるので』って言って帰ろうかと思っていたのだが、田端氏の目の下の隈を見て文句は言わない事にした。
昨晩は貫徹かな?
「待たせてすまない。
昨晩は危険な破落戸の逮捕にご協力頂き、感謝する。
指紋を調べたところ、複数の強盗や傷害事件にも関与が疑われている事が判明したので、あの一帯がこれで多少なりとも安全になったと思う」
私たちに丁寧に頭を下げて謝意を示してから、田端氏が席に座った。
ほほ〜。
やはり余罪があったかぁ。
ちゃんと見つかって良かったね。
懲りずにウチらを襲うバカだから、証拠の隠滅とかもしてなかったんだろうなぁ。
まあ、どちらにせよ役に立って良かった。
「さて、もう一つのお願いなのだが・・・来月半ばから六本木の新しい商業施設の展示場で開かれる宝石展に展示される宝冠の買取り希望がダークウェブで提示された。
中規模地方都市の年間予算額に匹敵する金額なので関わろうとする人間もそれなりに現れると思われ、収納符や収納能力を封じる時空結界の展開の要請を退魔協会に出す事になって私が話を纏めているところでお二方から呼び出しが掛かったんだ。
出来れば時空結界の方も藤山さんにお願いしたいが、それ以上に『触れると昏倒する』と言う結界を是非とも活用させて貰いたいと思ってね」
何やら展覧会っぽいパンフレットをこちらに差し出しながら田端氏が言った。
おお〜。
マジでダークウェブなんて本当にあったんだ?
半分冗談混じりにやっていた推理が当たって、びっくりだよ。