制御はできないか。
『確かにあそこは古いですし大きな揺れの後は一度エレベーターの点検をしてから使った方が安全かも知れませんね。
ただ・・・先日の地震で高層マンションのエレベーターの多くで安全装置が起動してしまったせいで、技術者が再起動の為に出尽くしているようなんですよ。
低層階ですし、今回は階段を使って頂けますか?』
昨晩は結局あのエレベーターも階段も使う勇気が持てず、家に帰った。
今朝になって青木氏に電話したところ、エレベーターは点検してから使った方が良いものの、技術者が来れるのがいつになるか分からないとの事だった。
「エレベーターの再起動が追いつかなくて大変だってニュースでも言っていましたし、階段で構いません。
ただ、あの階段はかなり汚れや鳥の糞や虫の死骸でデロデロになっているので、滑って転びそうで危険だと思うんです。
せめて3階なり、5階なりまでの階段の緊急清掃をお願い出来ませんか?」
退魔協会の依頼の期日までまだあと3日ある。
その間にあの階段を掃除してもらいたいところなのだが。
本来ならば青木氏に言うのでは無く退魔協会から依頼主である再開発事業体に連絡すべきなのだが、それではどれだけ時間が掛かるか分からないのでショートカットとして青木氏に頼んでいるのだが・・・どうだろう?
不動産屋ってこう言う時の緊急清掃を頼める伝手ってないのかな?
『確かに滑って怪我をしたら困りますよね・・・。
わかりました、業者に連絡して至急5階まで階段を洗浄して貰います。
終わったら連絡しますね』
流石、青木氏。
何とかなりそうだ。
「ちなみに、今日中に出来そうですかね?」
ある意味、日数が掛かるならエレベーターの技術者を待っても同じことだ。
どうせエレベーターの再点検は工事の為に必要だろうから、日数が掛かるなら掃除をしても意味がない。
『今日中に終わるように尻を叩きます』
青木氏が約束してくれた。
「やったね〜」
碧がコーヒーを注ぎながら親指を上げて見せた。
「本当。
昨日無理して階段を登らなくて良かったわ〜。
あそこで滑って怪我をしたら嫌だし、なんと言ってもGの死骸や鳥の糞塗れになるなんてゴメンだもんねぇ」
碧のG避けがあるから生きたGとの直接的な接触は無い筈だが、死骸にはG避けも機能しない。
足を滑らして尻餅をついてお尻の下や手の下に虫の死骸があったりしたら、一週間は手で食べ物を触れなくなると思うし、服は速攻ゴミ袋行きだ。
綺麗に掃除してもらえるなら一安心だ。
「そう言えば・・・昨日は地震の事を教えて頂けましたが、白龍さまって地震や津波や噴火を起こしたり止めたり出来るんですか?」
ふと気になったので横でのんびりプカプカ浮いて日向ぼっこしている氏神さまに尋ねる。
前世では火竜などは火山に棲むと言われていたが、別に噴火させるとは聞かなかった。
だが、日本の伝説では龍といえば自然の化身とも伝えられ、天災はそれらの存在が怒っているからと言われることがあったが・・・どうなのだろう?
『多少の雨や風は起こせるし、嵐の経路を動かす事も不可能では無いが、地震や噴火に大きな影響を与えるのは無理じゃな。
ここは魔素が薄すぎる。
幻想界のように魔素と物質とが濃密に絡み合っている世界でないと魔力を食い過ぎるの』
あっさり白龍さまが伝説を否定した。
「あれ、でも地震は分かったよね?」
碧が少し首を傾げた。
『地震は巨大な力の動きじゃからの。
止める事や起こすことは出来ぬが、感知するのは難しく無い』
考えてみたら、地震って地盤の歪みに溜まった力が発散されることで大陸プレートが動く現象な筈。
だとしたら、そう言う溜まった力を突いて地震を早い目に起こすことぐらいは出来るかも?
とは言え、限界まで溜まっていなければ突いて力を発散させるのに必要な魔力は莫大なスケールになるだろうし、限界まで溜まっていたら大きな被害が出る事は変わりがない。
それこそどっかの誰かが未来視ができて、『何月何日の何時に地震が起きます』って分かるなら、当日か前日の被害が一番少ない時間帯に起きるように多少地震を早めることが可能かもって程度なのかなぁ。
とは言え、今の日本だったら何時なら死者が一番少ないかなんて一概には言えないからなぁ。
夜の方が帰宅難民の人は減るだろうが、下手に家にいるとちゃんと固定していない家具で怪我する人が多くなるかも知れない。
また、食事時を避けた方が火事が減るかも知れないが、現代日本だったら地震の後の火事って切れた電線とか、津波によるショートとかが主な原因である気がする。
東日本大地震の時は15時前後で昼ご飯時では無かったせいか最初は火事は少なかったが、切れた電線や津波で流された車とかが原因で火事が起きていた様だった。
後は停電が復旧した時の暖房器具からの発火も危険らしいし。
そう考えると安易に手を出しても良い結果になるかなんて分からない。
神様でも、出来る事は限られちゃうなんて切ないね。