表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/1359

情報共有と情報保護

「これでラストです。

始める前はとんでもない仕事量になるかもとちょっと心配したんですが、意外と早く終わった感じですね」

碧が低層部分の霊障チェック報告書を青木氏に渡した。


あの虐待主《下浦美月》の婚約者の様子を隠蔽バージョンのクルミにモニターさせつつ、再開発マンションの上の方で何か想定外な変化とかが起きてないかも確認しておいたのだが、結局特に問題はなし。


中層階の除霊でまた白魔術適性持ちが一部依頼されていたが、残念ながら10階だったので階を超えた悪霊の動きのストッパーとしてはあまり役に立つ位置では無かった。

でもまあ、最後に確認したら6階から9階の部分も除霊効果がきっちり残っていたし、高層部にも新しい霊障は現れて居なかったしで、極端に神経質になる必要は無いかな?と言う事で今回は中層部と下層部の間を特に碧が何かするでもなく、放置した。


それに下層部の除霊を頼まれる可能性はそれなりにあるだろうから、そうなったらまたさらっと上の方を確認すれば良い。


「ありがとうございました。

そう言えば、先日の601号室の元住民に関しては何か進展がありましたか?」

青木氏が聞いてきた。


紹介してくれた興信所から何も聞いていないのか。

まあ、ウチらがお金を払って雇っているんだから私達以外に情報を漏らさないのはある意味当然ではあるけど。


やはり青木氏もペット虐待主の事は気になるらしい。

それにうっかりあんなのに部屋を貸したりしたらそれこそ原状回復費の回収がとんでも無いことになりかねない。

まあ、現時点では今の部屋は比較的綺麗に使っているようだったけどね。


・・・婚約が解消されたらその後は荒れて何をするか分かったものじゃあないが。


「興信所の報告によると妊娠を装って出来ちゃった婚をしようとしています」

碧があっさり答える。


「装って?」

青木氏が問題のキーワードに気がついた。


「先日、もしもペットを虐待していたらなんとかして救出しようと確認しに行った際に本人を見かけたんですが、妊娠していませんでした。

近いうちに婚約者に真相を漏らそうと思っていますが、どうやるのが一番良いか、ちょっと考えているところです」

婚約者に真相が分かるような行動を自発的に取らせる暗示を掛けることが出来るなんて知られる訳にはいかない。


治療が出来る碧が妊娠中か否かを見分けられるのは問題ないが、私なり碧なりが人を操れるなんて思われたら厄介だ。


「何とも困った人ですね」

青木氏が溜め息を吐いた。


「ある意味、珍しく霊障をほぼ完全にスルーする人のようなので、部屋を滅茶苦茶にしないって信頼できるなら事故物件を貸してもよっぽど物理的に攻撃的な霊障以外だったら平気そうなんですけどねぇ」

あれだけ霊を憑けていても平気なのだ。事故物件が埋まらなくて困っているなら貸しても長続きしそうだ。

とは言え、毎年引越しているし、下手をすると裁判に負けたら数ヶ月分の家賃を踏み倒して夜逃げする可能性もあるし、部屋をあの601号室に様な状態にする可能性もあるしで、客としてはリスクが大きすぎて目の前に現れたら断る一択だろうけど。


「・・・考えてみたら、ああ言う問題のある過去持ちな人の仲介を断る事って可能なんですか?」

可能なのだとしたら、どうやって彼女は毎年引っ越しているんだろう?


「裁判の結果が確定して、賠償金の支払いを拒否したら信用機関情報に載るので拒否出来ますが、現時点では同じグループ会社内とかでない限り勝手に個人情報を他の会社と共有できないので、正式には仲介を拒否できませんね」

肩を竦めながら青木氏が答えた。


「正式には?」


「店に直接来た場合だったら、お客さまの希望にピッタリな物件がありませんね〜と言って条件に合わない物だけを見せる事は可能です。

ですがオンラインとか外に張り出してある広告を見かけて『これを借りたい』って指名されちゃったら我々が断る事は出来ません。

内覧の際に問題点をそれとなく深刻そうに指摘したり、オーナーさんの方に漠然としたリスクの事を話すのは可能ですが、『過去にどこそこの会社での原状回復費を踏み倒した』って言う情報は正式には我々が入手できる情報ではないので共有する事も出来ないんです」

溜め息を吐きながら青木氏が教えてくれた。


どうやら今回集めてくれた情報は非公式な業界のこっそり情報な様だ。


「オーナーさんは断れるんですか?」

「それは勿論。

外国人や高齢者を断るオーナー様が多くてお客さまが苦労する事もあるんです。ただまあ、若い女性っていうのは安全牌だと思われがちなのでオーナー様が断る事はほぼ無いですが」


個人情報を保護する必要があるのは分かるけど・・・オーナーとしては業界情報としてヤバい借主の情報はシェアして欲しいだろうに。


虐待主はこれからも色々と周りに迷惑をかけて生きていくんだろうなぁ。

共感能力がゼロでも単に周囲に無関心なだけだったら問題を起こさずに生きていけるだろうに、なんだって彼女はイジメとか虐待の方に振れちゃうんだろうね?


人間の性悪説の証明みたいでちょっと鬱になる。


取り敢えず。

願わくは彼女の婚約者さんがさっさと真実に気がついて我々が手を出さなくても良くなるようにしたいなぁ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ