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無茶振り法則

「今度も中層階の退魔依頼が来たよ〜」

退魔協会から来たメールを見て、碧に声をかける。


「今って短い期間で霊障チェックの最終部分をやっているところだから、断ろう」

源之助の肉球を写真に上手く捉えようとにじり寄りながらタブレットを構えていた碧が振り返りもせずに答える。


「霊障チェックは退魔協会の仕事じゃないし、前倒しでやってきたからそれ程負担なくできない?」

と言うか、元々中階層の報告書を差し出す前に5階と4階のチェックは終わらせていたし、あの後3階と2階も見終わったから後は1階部分が残っているだけだ。

G発生の原因があるかもと先にチェックした1階のゴミ捨て場とか、エレベーターのブレーカーがある管理人室は悪霊は居ないのを既に確認してある。残りの居室部分は他の階より少ないから明日で問題なく終わるだろう。


「無茶振りな依頼を文句言わずに受けると、次から次へとまた無茶振りされるのよ。

霊障チェックをしている事は退魔協会も知っているから、ここでこの程度の仕事を熟せるってバレると次から更に仕事を押し込んできかねないから、可能な仕事量は少なめに見せとかないと大学を卒業した後が大変よ」

満足できる写真が撮れたのか、碧が立ち上がってこちらに来た。


「・・・そう言えば、学業もあるから仕事の量は制限しないとって言っているんだっけ」

慣れてきたら霊障チェックも早くなったし、破落戸は捕まえずに追い払っているので警察へ突き出す時間を取られていないのでそれ程時間的にキツく無いが、考えてみたらそれを退魔協会に知らせる必要はないね。


何と言っても需要と供給のバランスは需要側に大きく傾いているのだ。

退魔協会はウチらが十分だと思う収入レベルを超えてもっとがっつり働かせたいだろう。


今は『学生だから』と言っているが、卒業したらその言い訳は使えなくなる。

そうなると『能力的・体力的に無理だから』と言うしか無いので、現時点であまり楽に仕事を熟している姿を見せるのは賢くないだろう。


雇い主とはちょっと違うが、ある意味この業界唯一の仕事斡旋業者なのだ。

無茶振りを嫌って仕事を断り過ぎると嫌がらせを受ける可能性もあるし、ここは無茶振りされないようにこちらの余力を低めに見せるのが正解だ。


無茶振りを熟す事が更なる無茶振りを呼ぶ。

どの世界でも不変な法則らしい。

「よし、断ろう」


「昔、父親がうっかり頑張って仕事をやっていたらどんどん次から次へと無茶振りされて、危なく大怪我する羽目になったんだって。

絶対に仕事は時間や余力の100%を使い切るレベルまで請けるなって口を酸っぱく言われたんだよね〜」

タブレットの画像を確認しながら碧が教えてくれた。


「へぇ、碧パパでもそんなうっかりをやっちゃう事ってあったんだ?」

そこら辺は要領良さげに見えるのに。


「丁度その頃出会った母親に、いいところを見せようと頑張り過ぎたんだって」

肩を竦めながら碧が答える。


ははは。

男ってちょっと馬鹿なのかも。

まあ、女も馬鹿になることは多々あるけど。


「こっちとこっちの写真、どっちがいいと思う?」

碧がタブレットを回して渡してきた。


さっきの肉球の写真らしい。


黒いビロードのような光沢のある足先にちょんちょんちょんと肉球が埋まっている。

1枚は足先が伸ばされてふにゃ〜とリラックスしている状態、もう1枚は少し足先を丸めて源之助が舐めようとしているところだ。


『パーフェクトな1枚』を求めて似たり寄ったりな写真を大量に撮る事の多い碧だが、今回はそれなりに違いがあり、どちらもとても可愛らしい。


「う〜ん。

どっちも良いし、それなりに違うから両方残しておいたら?

それよりもこっちの上から見下ろしてる写真を幾つか削除する方が良いと思う」

確かに角度はちょっとずつ違うし、微妙に表情も違うが、基本的に『上からぼんやりこっちを見下ろしている源之助』の映像がタブレットのアルバムに山程あるのが見える。

源之助がのんびりぼ〜っとしていて写真を撮れる機会は限られている為、キャットタワーの上から見下ろしている眠そうな姿は一番シャッターチャンスが多いので写真も多い。


似たり寄ったりなのが多いし、これこそもっと厳選するべきだろう。


「そうだねぇ。

確かにこの肉球はどっちもキープすべきだよね!

もうそろそろメモリーが厳しいんだけど、クラウドでもっと保管できるよう契約を変えるわ」

消す方向では無く、契約を変える方向を選ぶらしい。


まあ、良いけど。

とは言え、可愛くても似たような写真が沢山あってもちゃんと見なくなるんじゃない?

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