今もやってるでしょうねぇ
「601号室に住んでいた女性、ですか?」
中階層の霊障チェック報告書を持ってきたついでに青木氏に601号室の虐待主の情報収集を頼んだ。
「あの再開発マンションって悪霊や恨みの凝り固まった霊障とかがやたらと多いんですが、それ程は人が死んでないんです。
勿論自殺して地縛霊になった人は何人か見かけましたが。
ただ、601号室は・・・」
思わずあの犬の惨状を思い出して顔を顰める。
「人を殺していたんですか?!」
青木氏がギョッとしたように聞いてきた。
「いえ、人はまだ殺していませんでしたが、犬を虐待しまくって悪霊化させていたんです」
しまった、犬だと話してしまった。
『死者の手向に』と人間っぽいニュアンスで誤魔化そうと思っていたのに、うっかりあの酷さを思い出して本音が出てしまった。
「犬?」
ちょっと安心したように青木氏が椅子の背に寄りかかった。
「犬とか猫ってかなり刹那的なんで、虐待されても悪霊化する事って滅多に無いんです。
以前あの子猫たちを保護した猫屋敷だって、多数の猫が死んでいましたが悪霊になった仔は1匹も居なかったでしょう?
そんな相手を悪霊化させるなんて、並大抵の虐待では起きる事ではないんです。
つまり、601号室に住んでいた女性はそれだけ残虐性があると言う事で・・・今でもペットを嬲り殺しているか、下手をしたら自分が生んだのだからって事で幼児を虐待している可能性があると思うんです」
30年ちょっと前に建てたマンションだと聞いた気がするが、あの犬はそこまで昔の霊では無かった。
とは言え、1年やそこらでは無い感じだったので下手をしたらもうあの虐待主が子供を産んでいる可能性はそれなりにある。
子供の世話なんて向いていないと自分の性質をしっかり理解して妊娠していないと期待したいところだが・・・下手をすると出来ちゃった婚狙いで態と避妊に失敗する可能性はある。
アメリカなんかだったら非合法な赤子の養子紹介業者に子供を高額で流せるらしいので、妊娠トラップに失敗して中絶も間に合わなくなった場合でも子供が欲しくない母親がそのまま育てる可能性は低そうだが、日本は血の繋がりを重視するせいかそこまで養子の需要がないのかイマイチ非合法な赤子のマーケットはニュースとかでも見ない。
そうなると生まれた子供が欲しく無かった母親の元に残る可能性は高く・・・虐待のリスクもがっつり高くなる。
虐待するぐらいだったら養護施設にでも子供を残してくれば良いのにと言う気がするが・・・考えてみたら、妊娠して子供を産んじゃったら戸籍にその子供が加えられちゃって、子供がいない事が問題として発覚しかねないのかね?
子供の出生届を出さなければそこら辺は大丈夫な気がしないでもないが・・・深く考えずに病院の言いなりに手続きをしていたら抜き差しならないところまで記録が残りそうだ。
まあ、それはさておき。
「あ、ちなみに601号室はあまりにも犬の悪霊が壮絶な様相で可哀想だったので除霊しました。
退魔協会にバレると色々と煩いので、あそこは最初から何も憑いていなかった事にして下さいね。
被害に遭った犬の為なので我々も除霊費は請求するつもりはありません」
碧が付け加える。
「・・・そんなに酷かったんですか」
痛ましそうに青木氏が呟く。
「殆ど餓死状態だったのか骨と皮だけって感じな上に、吠えないようにか喉は酸で潰され、身体中が火傷で焼け爛れていた上に足も一本切断されてました。
どうも『女性の一人暮らしだから』って安全の為に犬を飼って、上手く躾けられなくて苛ついて虐待したようです。
犬に懲りたから今度は猫を飼って虐待している可能性も高いと思いますよ」
猫派の青木氏なのでそちらも指摘しておく。
何と言っても子供を産むって言うのは女性にとっては大変な負担だ。
男を引っ掛ける為以外だったら虐待主が自発的に出産する事はないだろうが、ストレス発散の為に猫を買って虐待する可能性は高い。
「・・・どの程度の情報が入手出来るか分かりませんが、伝手を使って調べてみますね」
流石、青木氏。
猫を虐待しているかもと言う言葉で即決だった。