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ちょっとお願いしてみよう

「ふふふ、見て見て〜」

再開発マンション中層階の霊障チェックが終わったので、今回は私が報告書を書き上げていたら碧が突然笑い声を上げて声を掛けてきた。


「うん?」

目を上げて、碧が差し出してきたタブレットを見る。


動画の再生ボタンを押すと、リビングのソファからの光景が映り・・・ソファの向こう側をピンと立った尻尾がすぅっと左から右へ動いて行くのが見えた。

立った尻尾の先っちょが少し左に右にと曲がりながら動いて行くのも何とも微笑ましい。


「ソファの座席部分が邪魔で寝転がっていると源之助の本体が見えないのに、機嫌が良いと尻尾だけ見えるの〜。

可愛いでしょ?!」

碧が映像の説明をしてくれた。


なるほどねぇ。

角度的に立てた尻尾だけが視界に入るのか。

おもちゃや外の鳥を狙って尻尾をぶんぶん振っている姿も可愛いが、ご機嫌に立てた尻尾だけが見えている姿も愛らしい。


「猫って本当に魔性の生き物だよねぇ〜」

私なんて元は犬派だったのに、今ではすっかり源之助の下僕だ。


なんかこう、犬って弟分とか仲間って感じなんだけど、猫ってあっちが上から目線なのを受け入れちゃう不思議な魅力がある。

猫が人間だったら傾国の美女になったんじゃない?

まあ、怠け者過ぎて国を傾ける程の労力を割かない可能性も高そうだけど。


「こうやってみると、尻尾はあの動きが凄く魅力的だよね。

肉球でプニプニされるのもメロメロになるけど、見るだけだと尻尾の方が虜になるかも」

碧が昨日の私の主張に今更になって合意してきた。


確かに、あのプニプニな肉球で頬や太ももの上とかを踏み踏みされるのも妖しい魅力がある。

「触感はあんよ、視覚は尻尾が勝ちってとこかな?」


「そうだねぇ」


三度ほど尻尾の動画を見てから、報告書を見直して碧に最終確認の為に渡す。

「そう言えばさあ、あの601号室の住民についての情報って青木氏から入手出来るかな?

直接関わってなかったにしても業界の伝手で情報を入手するか、もしくは興信所を紹介して貰うかで何とかしたいところなんだけど」


あの犬の悪霊の仇・・・と言うか虐待主の制裁はやっておきたい。

何か現時点で違法行為をしているなら当局にチクって取締らせたいし、自分のペットの虐待みたいな現存の法律ではイマイチ効果的に罰せられない事ならばせめてあの苦しみを味合わせると共に、子供を産んで虐待したりしないように措置しておきたい。


誰かの子供を産む権利を私が独断で阻害して良いのかと言うのはちょっと微妙な点だが、子供に親は選べない。


犬だからと言って、自分に依存する感情も痛覚もある生き物をあそこまで虐待し尽くした女だ。


子供なんぞ産んだら、何らかの理由でストレスが掛かったら人の目が及ばない家庭内でどれだけ子供に苦痛を齎すか分ったものではない。

日本では『母親が子供を育てるのが一番』と言う価値観が未だにかなり強いから、涙を見せて『後悔しています、心を入れ替えました』と言って見せればそれこそ子供が実際に死ぬまで、虐待する母親の元に繰り返し子供が戻されそうだ。


血液検査で客観的にチェック出来る麻薬中毒とかいうのならまだしも、あの犬の悪霊から受け取った記憶の中にそんな情報は無かった。

単にあの虐待主の精神が歪んでいるだけだ。

あれを親に生まれてくるなんて、子供にとって不幸すぎる親ガチャだろう。


苦しみの果てに殺される子供を救う為にも、生まれないようにしておきたい。

水子霊ならまだしも、虐待されて殺された子供の悪霊なんぞ祓う羽目にはなりたく無いし。


「あの部屋が賃貸だったか分譲だったかで青木さんが入手出来る情報が大分変わると思うけど、取り敢えず調べて貰ってダメそうだったら興信所を紹介して貰おう。

私らも信頼できる興信所を一つぐらい知っておいて損はないだろうし」

碧が提案する。


そうなんだよねぇ。

あちこちの人から調べられたからそれなりに興信所の事を知る羽目になったけど、プライバシーを侵害する方向で使われた興信所が信頼できるかは微妙な所だ。

有能なのかもだけど。


青木氏がそれなりに有能でそこそこ信頼が出来る興信所を紹介してくれると期待しよう。


でも。

「ちなみに過去のとは言え、住民の個人情報とかって教えてくれるんかな?」


あの犬の悪霊はそこまで古い感じでは無かった。

個人情報保護に時効ってあるのかな?


「まあ、あそこに残っていた死者の為の最後の手向けだからって言ったら、非公式に情報を流してくれるんじゃない?

ある意味、霊に尋ねれば個人情報保護なんて無いのは青木さんだって分かってるし」

肩を竦めながら碧が答えた。


まあ、そうだよね。

この中層階の報告書を渡す際に頼んでみよう。



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