遊びだったのね?!
ぴく。
オモチャを夢中になって追いかけていた源之助が突然動きを止め、耳を澄ましたと思ったら玄関の方へダッシュして行った。
ガチャ。
「ただいま〜!」
玄関が開く音がして、碧の声が響く。
「おかえり〜」「きゃぁ〜源之助ちゃん、元気にしていた?!会いたかった〜〜〜!!!」
私の挨拶は源之助に迎えられた碧の嬌声に打ち消された。
普段は出迎えをしない源之助だが、暫く碧と会えなかったのが寂しかったのか、今日は特別サービスのようだ。
源之助を迎えてから初の長期帰省だった今回は、年初とあって死ぬほど忙しい碧は連れて行っても相手をできないし、母屋の方でも人の出入りが多いので下手をしたら家を彷徨い出て迷子になるかもと言う事で、28日の夕方から2日の昼まで青木氏のニャンコ達の所へ預ける事になった。
碧は年初の繁忙期が終わるまで帰ってこれなかったが、私は2日の昼前に帰ってきて源之助を迎えに行き、只管一緒に遊んでいたのだが・・・。
ここ3日ほど凄く人懐っこく私に甘えていた源之助は、碧が帰ってくると一気に態度を変えた。
見事な手の平返しである。
まあ、数日留守にしただけで忘れ去られたら碧が絶望しちゃうから、これはこれで良かったんだろうけど、朝から晩まで『遊べ』とか『オヤツが欲しい』とか言った要求に応えてきた私としては、こうもあっさり見捨てられると思わず『私なんてその場凌ぎの遊びだったのね!?』とちょっと言い募りたくなる気分だ。
まあ、源之助にとってはお気に入りの下僕が碧で、私は『悪くない』程度の下僕見習いなんだろうから、今更かな。
「源之助はどうだった?」
源之助を抱っこしながらリビングに来た碧が聞いてきた。
「青木氏曰く、ちょっと初日は寂しげだったけどその後は仲良く他の猫達とわちゃわちゃしていたんだって。
こっちに帰ってきてからは碧が居ないから夜にも私の寝室へ来て顔を踏んだりされたけど、食欲は普通にあるしトイレも異常ないから、初のお留守番(?)は特に問題なく過ごせたみたい」
まあ、まだ子猫だから他の猫達と一緒になっても大丈夫だったという可能性はあるけどね。
大人になっても猫部屋で喧嘩しないかは要確認ってやつだね。
場合によってはペットシッターを雇ってウチに来て源之助の面倒を見てもらう方が良いかも知れない。
「了解〜。
源之助を迎えに行ってくれてありがとね。
そう言えば、凛のお兄さん達はあの後大丈夫だった?」
源之助ごとソファに座りながら碧が尋ねる。
「体調が良くなったから、家に荷物を取りに帰ったら速攻北海道のゲレンデに戻ってった。
一応昨日チャットアプリで確認したけど、体調不良も特に無しだって」
「え、あの後直ぐに北海道に戻ったの??」
碧が呆れた様に聞き返す。
だよね〜。
年末なんだし、あれだけ体調悪かったんだから、そのまま元旦ぐらい家族と過ごすだろうって普通思うよね??
そう考えると、怜子さんも兄貴と同レベルなスノボ狂ってことでお似合いな二人なのかも。
でも、あれで結婚して子供が出来たら、妊娠中に怜子さんだけ滑れないのは喧嘩になるか?
出産後なら北海道の大型ゲレンデなんかは保育施設なんかもあるリゾートタイプも多いらしいが・・・出費が嵩みそうだねぇ。
まあ、IT関係は売り手市場らしいからなんとかなる?
でもIT技術者の需要は高いって新聞でしょっちゅう見るけど、IT業界って子請け孫請けで過酷なブラック産業だって話も聞くし、どうなんだろ?
「そう言えば、あのお兄さんも実は才能あるよね?」
碧が早速オモチャを源之助の視界の隅で振り回しながら聞いてきた。
「まあねぇ。
親に曾祖母さんの事を聞いてから改めて確認してみたら、一応母も兄も修行したらある程度は除霊が出来るかもって感じだね。
何もしなければよっぽどのホットスポットに行かなきゃ霊も見えないレベルだけど」
とは言え、私も15歳に覚醒するまでは霊とか見えてなかったからねぇ。
この世界って『見え無い』って言う思い込みと薄い魔素のせいで、才能を磨いて魔力を練る訓練をしていない限り、普通の日常生活だったら実は才能持ちでもそれに気が付かない事が多いみたいなんだよねぇ。
「教えてあげないの?」
「折角食っていける技能を身につけて普通に働いているんだから、絢小路先輩じゃあるまいし今更見習いになって下働きから働く必要はないでしょ。
私が教えるのも微妙だし、無料で碧に教えてって頼むのも無理があるし。
勿体無いほどの才能でも無いし、このままでいいんじゃない?」
まあ、私が退魔師になると知ったから、子供が出来たら才能を確認して必要に応じて鍛えてくれって頼まれる可能性は高そうだが。
とは言え、北海道と関東じゃあ遠いからねぇ。
訓練しないと危険なほど才能があるって言うんじゃない限り、よっぽど本人がやりたがって、中学や高校程度で親元を離れて私の所に弟子入りさせて下さいって土下座でもしてこない限り、素知らぬふりかな〜。