いつかお返し出来る・・・と良いなぁ
「兄貴って怜子さんと真剣に付き合ってるのかなぁ?」
兄貴と怜子さんの除霊が終わり、礼金を払って帰宅したら『これならもう一滑り出来る!』と兄は速攻で北海道に戻って行った。
何やら帰りのタクシーの中でしていた相談では怜子さんも合流するらしい感じだったから、似たものカップルなのかも知れない。
ちょっと気になったので帰宅後に窓拭きを手伝いながら母に二人の事について聞いてみた。
「取り敢えず結婚式を今年挙げる予定は無いみたいだけど。
長期的にどうするのかはまだ未定っぽい?
やっぱりこればかりは本人だけじゃなくって相手の予定や心積りが大きく影響するからねぇ」
シュシュシュッと窓に水を吹きかけ、水切りで汚れごと落としながら母が答える。
「あ〜、ちなみに私は特に付き合っている人はいないし、もしかしたら見つけるのも難しいかも。
碧の話だと、退魔師の家系ってかなり男尊女卑っていうかお家第一な風習が未だに強いみたいだから気が合わなそうなんだよねぇ。
かと言って、一般の人に『職業は退魔師です』って言うのは微妙な感じだし」
ついでなので母に伝えておく。
孫への期待とかでプレッシャーを掛けられるのは嫌だし、かと言って碧と付き合っていると思われて変に生温く『理解ある態度』を見せられたくも無い。
「う〜ん、確かにねぇ。
私は小さい時からお婆ちゃんにちょくちょく力を使っているところを見せてもらっていたから信じたけど、普通だったら退魔師なんて中々信じないわよねぇ。
かと言って、中学の頃の輝みたいな言動をとる男性を結婚相手だって紹介されたら少し引くし」
母がため息を吐きながら言った。
なるほど。
曾祖母さんは才能がイマイチとは言ってもある程度は霊力を使えたのか。
「ちなみに、お父さんにはどう説明したの?」
自分の子供に『あなたには陰陽師の血が流れているのよ』なんて事を言い聞かせている奥さんを見たら、退魔師の存在を信じていない男性だったら下手をしたら離婚を考えるだろう。
昨日の様子では父も霊とか瘴気の存在を信じているようだったから、まだ曾祖母さんが生きていた頃に結婚した際に何かを見せたんだろうけど。
「お父さんは入社して直ぐは不動産開発の部門に居たから、元々退魔師の存在は知っていたの。
だから子供に隔世遺伝で霊感が出る可能性があるって説明してもそれ程驚かれなかったわ」
母があっさり答えた。
「マジ?!」
商社マンな父が不動産開発に絡んでいたとはびっくりだ。
てっきり石油とか鉱石の輸入とか、ハイテク部品の輸出入の手配とかしているのかと漠然と考えていた。
ショッピングセンターとかアウトレットモールとかの開発にも商社って関係するんだっけ??
何はともあれ、不動産開発に関与するなら確かに退魔協会とかとのやりとりもありそうだ。
・・・海外の魔術師協会みたいのとかも知っているのかな?
地縛霊は日本だけの現象じゃないから、他国で大型プラントの建設とかに関わったら現地の退魔協会っぽい組織からも協力が必要な時もありそう。
つうか、考えてみたら不動産業界の人なら退魔師の存在を信じているか。
下手にビジネスに利用しようとか割引サービスを求められたら困るけど、一応頭の隅に入れておいても良いかも。
「陰陽師の家の人達もお祖母ちゃんの時代と多少は考え方が変わってきているかもだけど、出来ればそっちの人と結婚しない方が私的には安心かなぁ。
まあ、何事も相手が居ての話だからね。
取り敢えず、下手に人を紹介しようとしなければ良いのね?」
水切りで落としきれなかった水を新聞で拭いながら母が言う。
「そう。
縁があればあるし、無ければ無いって事で焦らずに適当に生きていくつもりだから。
兄貴もあんな感じだから孫が出来るか分からないけど、ゼロだったらごめんね」
ある意味、子供を産んで育てるのは家を継ぎ、社会としての継続性を保つためだ。
私らや私らの子供が働いて税金を納める事で親の年金をカバーするんだから、子供を産まないって言うのは投資の長期的リターンがゼロになる裏切り行為とも言えなくも無い。
とは言え。
やっぱり前世の事とか退魔協会の事とか、色々あるから難しそうな気はするんだよねぇ。
まあ、業界によっては想像していたよりも理解がある可能性が高いと言うのは朗報だけど。
取り敢えず、退魔師として誠意を持って働いて、他の人が健全に子供を産んで増やせるようにしていこう。
今のところ、やばい人が子供を産まないようにストップを掛けている事の方が多いけど。