男女差別するつもりは無いけどさぁ
「明日の朝1で来たらお祓いしてくれるってさ。
ちなみにジーパン不可。
ちゃんとスーツか何か、それなりに神様に敬意を表した服装で来てくださいって」
電話が終わったら兄貴の部屋に顔を出して知らせる。
「服・・・?
学生服のズボンに親父のジャケットでも借りるか」
ベッドから顔を出した兄が部屋の中を見回してから溜息を吐いて言った。
うわ〜。
ちょっと一緒に歩いているのを目撃されるのが嫌になりそうな予感。
まあ、そこら辺は後で試着して決めてもらおう。
「ちなみに、兄貴はレンタカーして運転するほど体調は良くないよね?
私はまだペーパードライバーに毛が生えた程度だから、帰省ラッシュの今の時期にレンタカーして長野まで行くのは無理だから。
兄貴が運転するって言うんじゃない限り、電車とタクシーになるよ」
ある意味、帰省ラッシュ中だったら道が混んでいて皆がノロノロ運転で安全かも知れないが、割り込みとかはまだまださっと素早くは出来ない。
どう考えても渋滞とかを悪化させそうで、殺気立ってる激混み道路で運転する勇気は無い。
「・・・向こうの駅で着替えるよ」
高校生時代の服か父の服を着て電車に乗るのは嫌だが、運転するほど体調は良く無いらしい。
「就活中の服とか、何か家に置いてないの?」
あまりみっともないと一緒にいる私も微妙に見られかねない。
「就活は全部北海道でやった。
帰省の時用の服も少しはあるが冬服はないんだよ」
なるほど。
まあ、自業自得だ。
どうしてもダメだったら駅前のA○KIででも吊るしの服を買えばいいだろう。
「そう言えば、兄貴も相棒の人は大丈夫なの?
長野だったら碧の実家もそこそこ近いだろうから自力で行く?
まあ、碧曰く普通に神社を回ってお祓いして貰えば、行き当たりばったりでも3、4箇所回れば本当に悪霊を祓えるところに当たる可能性が高いって話だけど」
考えてみたら、それを言うなら兄貴だって近所の神社を3つか4つ回れば当たる可能性はあるか。
とはいえ、ここら辺に幾つ神社があるのか知らないけど。
「そうだった!」
兄貴が慌てて携帯を取り出す。
「その碧さんの実家ってどこなんだ?」
「諏訪湖脇の諏訪神社。
諏訪神社ってそこそこ数があるらしいから、自力で行くなら住所を教えるけど?
もしくは明日の朝、最寄駅で待ち合わせしてタクシーで一緒に行っても良いし」
「もしもし、怜子?」
兄貴が携帯で話し始めた。
おい!!
相棒って女性だったの?!
男女差別するつもりは無いけど、女性ならもう少し気を使うべきじゃ無い??
って言うか、もしかして恋人なの?!
兄貴の恋人やガールフレンドの話なんて学生時代から聞いたこと無かったんだけど!
あまりにも話題に出てこないから、もしかしたら同性が好きなのを秘密にしてるのかな?なんて密かに思っていたんだが、違ったのかな?
つうか、考えてみたら両親とか兄貴ってば、もしかして私と碧がそう言う関係かもとか思っているんかな??
下手に一般常識しか知らない男を紹介されて気不味い思いをするよりは、同性が好きで普通な結婚は出来ないと思われる方が楽かも知れないけど・・・ちょっと微妙な気分だ。
今回の騒動で、同居した理由が世を忍ぶ愛とかじゃなくって退魔師として弟子モドキな感じに色々教わってるからと思われて、ラッキーだったかもだね。
しっかし。
恋人なら、悪霊に憑かれて体調が悪い時こそ一緒にいるべきじゃないんかね?
もしも私経由で碧の実家の神社を頼るつもりなら電話してくれても良かったんだし。
イマイチ行動が遅いぞ、兄貴。
悪霊に憑かれているって半信半疑だったのかね?
「凛。
明日ここを朝9時に出たら向こうの駅に何時に着くか調べてくれないか?」
電話から顔を離して兄貴が頼んでくる。
「ちょっと待ってね」
部屋に戻ってバッグから携帯を取り出し、乗り換え検索アプリを立ち上げる。
「10時半かな」
9時にこっち発だとこちらの駅近辺で服を買うって言う選択肢はないけど、良いんかね?
あっちの駅のそばに吊るしのスーツを売っているような店があったかは知らんぞ〜。