あれ??
「態々兄貴が冬に帰ってきたって事は何か祟られてる実感があるんだろうけど、どんな感じなの?」
取り敢えず兄貴の部屋に入り込み、学生時代の勉強机の椅子に座って情報収集を始める。
「最初は肩こりが酷いのと、頭が痛い程度だったんだ」
ボソボソと兄が答える。
「ふんふん?」
ちなみにスノボやりまくりな兄貴は夏もそれなりに体を動かして筋トレとかをしているせいで、肩こりとは全く縁が無いと前回会った時は豪語していた。
流石に中年になったらそこまで体のコンディションをキープ出来ないだろうが、まだ20代半ばなのでしっかり運動しているなら普段はあまり肩こりに悩まされる事も無いのだろう。
まあ肩こりと頭痛程度なんぞ、普通の運動不足な人からしたら通常運転過ぎて霊障に気付かない程度の不調だけど。
「だがそれだけでなく、毎晩変な夢を見るようになったんだ。
腹が痛い程に空腹だったり、カビの生えた鼠肉や芋を齧って更に腹が痛くなったり。
しまいには冷たい何かに押しつぶされて呼吸も出来なくなるんだ。
どう考えても、これってあの石碑の被害者の体験っぽいだろ??」
ヒーターのガンガン効いた部屋で寒そうに腕を擦りながら兄が言い募る。
う〜ん。
ちなみに憑かれた際の寒気は霊障だから、ヒーターをつけても関係ないんだよねぇ。
電気代の無駄だから止めたら?と言いたい。
「ちなみにその石碑に突っ込んだ知り合いの方は?」
「あいつも調子が悪くなったから、二人でスキー場から離れたんだ。
あいつは実家が長野の方だから分かれたけど、そっちに戻るって言っていた」
膝の上に頭を抱えながら兄が言った。
ふうん。
長野か。
だったら碧の実家の方に近いかも?
普通に神社のお祓いで先に治させたら良いかな?
兄貴はもう少し霊障って言うのを実感してもらって新年のお参りの時にお祓いするのが良いと言う気もするが。
つうか、ウチの両親はお祓いとか霊障とかって信じているのかな?
今まで話題になった事がないから微妙に聞きにくいんだが。
「実はさ、私のハウスシェアしている友人って霊感持ちで、実家でお祓いとかしてるし、それの手伝いもしてるんだって。
で、私にも才能があるって言ってくれて・・・最近退魔の方法とかを教えてくれてるんだ」
取り敢えず、自分が霊障被害に遭っているんで兄もここで『詐欺だぞ、気をつけろ』と言う善意だけどウザい助言はしてこないだろう。
「マジか?!」
兄が思わずと言った感じで顔を上げて聞いてきた。
「まあ、昔からちょっと影とかが見えるな〜とか思う時はあったんだけど、碧に教わってからはっきり瘴気とか悪霊が見えるようになったんだよね。
そんでもって、今この家って兄貴に憑いてきたらしき瘴気だらけ」
悪霊そのものは小さいのが2体憑いているだけなんで慣れれば単なる肩こりと働き過ぎって普通の運動不足なサラリーマンが思う程度だろう。
慣れてないんで堪えているみたいだけど。
「しょうき・・・?」
悪霊はまだしも瘴気は想定外だったのか、イマイチ何の事を言っているのか分かっていない顔で兄貴が聞き返す。
「家の中が黒い細かい埃だらけみたいな感じ。
しかもその埃のかなりの分が人間に集中していて、床に落ちない。
悪霊って悪い空気を呼び込む性質があるらしいから、兄貴に憑いてる悪霊が呼び込んでるみたいね。
お陰で母さんも父さんもなんか肩が凝って疲れたって言って年末だって言うのに大掃除も年賀状の仕上げも放置してテレビをぼんやり見てたよ」
霊障って本人だけじゃなくって同居者にも色々迷惑な被害がでるんだよねぇ。
まあ、霊障自体が『死』に納得していない霊の八つ当たりなんだから、八つ当たり対象が手当たり次第になるのは不思議ではないけど。
「何とか出来るか?」
溜め息を吐きながら兄貴が尋ねる。
「瘴気程度ならここ半年ぐらいの鍛錬で身に付けてきた技術で祓えると思うけど、態々北海道から憑いてくるぐらい怨んでる悪霊はちょっとまだ無理かなぁ。
碧の実家でお祓いすれば一発だと思うけど、どうする?
新年についでだからって事で長野の方の諏訪神社に行くのはありだと思うけど、つらいなら明日にでも行く?
明日に行くなら親への言い訳は兄貴が考えてね」
兄が首を傾げた。
「言い訳って?
別にお祓いに行くって言えばいいだろ?」
「え?
ウチって悪霊とかお祓いとか、信じてる家系だったの??」
話題に出てこなかったから、てっきり現代日本の一般家庭的な信じていないスタンスだと思って悩んでたんだけど?!