かいだん・・・
「階段が使えないのが面倒だねぇ」
15階から14階へ移動するのにエレベーターを呼びながら愚痴る。
このマンションは誰も住んでいないと言うのに、勝手にエレベーターが1階に戻るらしく毎回エレベーターを呼ぶのに時間が掛かる。
最初の頃は霊障の一種かと念入りに調べ、色々結界を張ったものだ。
だが何をどうやっても状況が改善せずとうとう青木氏に相談してみたら、どうもここは古い癖にエレベーターのプログラムで自動的に1階で待機する様になっている事が判明した。
毎回欲しい時にエレベーターが居ないなんて、霊障の一種だとばかり思っていたよ。
古いせいでプログラムを抜き取るのも大変らしく、不便でも現状のままで我慢してくれと言われた。
普通のマンションだったら誰か他の住民が使ったのだろうと思うが、除霊が始まる前の我々以外誰も居ない筈の時期ですら毎回帰る為にエレベーターボタンを押すとそこそこ待たされるのってマジでイラつく。
ただでさえトロいエレベーターなのだ。
かなり待ち時間が長い。
まあ、しょうがないんだけど。
流石にこのおどろおどろしい瘴気マシマシなマンションに夜来るのは嫌だったのか、11階から15階の調査依頼や除霊依頼が入って他の人間が出入りしていた(と思われる)時期でも夜間働いていてエレベーターで相乗りになる事は一度も無かった。
今日は27日なので仕事納めも兼ねて上層階の状態を確認しようと見て回っているのだが・・・エレベーターが相変わらず遅い。
普通だったらこれだけエレベーターで待たされるなら1階降りるだけの時は階段を使うのだが、ここはそうもいかず只管待つ羽目になる。
「ホント!!
でもあの階段だけはやっぱ嫌だからねぇ。
毎回Gを排除する結界を広げながら降りるぐらいならエレベーターのほうが早いし、Gが居なくても鳥の糞に滑って尻餅とかついたら悲惨だし。
根気よく待つしかないね」
溜め息を吐きながら碧が応じる。
ちなみに、15階の除霊をやった人間は白魔術の適性持ちでは無かったらしい。
除霊だけしたようで瘴気もそこそこ残っているが、他の悪霊が移り住んできた様子は無し。
ちなみに13階では私が除霊したところも瘴気まで祓ったところは一週間後でも比較的まともな感じだった。
意外と瘴気が他の部屋から浸透してくるのには時間が掛かるらしい。
まあ、悪霊がいない部屋でもそこそこヘビーに瘴気が漂っているマンションだから、最終的には汚染されるだろうけど。
「お、来たよ」
ギシギシ軋みながらエレベーターが上がってきて、扉が開いた。
◆◆◆◆
「中々ラッキーな偶然だったね」
驚いた事に、11階の除霊をした退魔師は白魔術師だった。
碧程の力はないらしく彼女が除霊した部屋のようにピッカピカに瘴気が消え失せては居なかったが、かなり綺麗に瘴気も祓われていた。
ある意味、碧の特効が適性から来ているのであって、白龍さまの愛し子だからでは無いという事が確認出来たのはラッキーだった。
「どうする?
このまま放置して様子をみる?
それとも全体的に瘴気祓いしておく?」
碧が周りを見回す。
結局、どの部屋も除霊直後なだけあって、新しい悪霊は住み着いていなかった。
もしかしたら正月休みの間に霊障がない部屋に逃げ込む悪霊や、瘴気が濃厚に残る部屋に新しく発生する霊障があるかも知れないが。
「う〜ん、この状態で放置したらどうなるのか興味もあるところだけど、1階1階調べるのがかなり面倒だから、やっぱり碧が11階全体の瘴気祓いをしておかない?
それで結界と同じ効果があると思う」
下手に結界を張って何をやっているのかと退魔協会に探られたら面倒だ。
今回は我々の霊障チェックの仕事に関する信用問題が生じかねないからやっている研究も兼ねたボランティア的な行動だが、我々が自発的に結界を張っているなんて知られたら他の仕事でも無料サービスを求められかねない。
幸運にも11階を担当したのが白魔術師だったので碧が瘴気祓いをしたかどうかなんてよっぽど念入りに調べなければ分からない筈。
白魔術師の特効がどの程度継続するかの確認にも良いし。
なんと言っても、暫くはあのトロくて軋むエレベーターとGと糞塗れな階段という究極の選択に迫られなくて済むのがありがたい。