『キレイがキープ出来ます!』
「13階の除霊依頼が来たよ〜」
貸し出されている社用車を碧がマンションの斜め前にある駐車場に入れている間にタブレットでメールを確認してきた私は、退魔協会からのメールを見て思わず笑いながら戻って来た碧に報告した。
「マジ?」
半分笑いながら碧がタブレットを覗き込んでメールを確認する。
結局、色々問題はあったものの11階〜15階の霊障チェックは12月10日には終わり、もう1日待って悪霊達が部屋を移動していないか最終確認してから12月13日の朝に青木氏に報告書を渡した。
仕事の支払いは月末締めの翌月払いが多いらしいのだが、我々は時期がずれると確定申告の収益計算が面倒だし、碧は今年なら所得税免除なので今年分として収益を受け取った方がいいとして翌日払いで契約してある。なのでチェックしたらきっちり経費込みで高層階分の報酬が14日に払い込まれていた。
で、今日が20日。
随分と早く退魔協会側の調査が終わった様だ。
まあ、私らの調査結果を追認しているだけだったら1日で全部見て回るのも不可能では無いかもだが。
一応はチェックしただろうし、中々頑張ったようだ。
・・・再開発の建設会社側が圧力でも掛けたのかね?
件数が多いから除霊そのものをどうするんだろうかと思っていたら、13階全部の7部屋を碧と私の事務所に2人分の仕事として退魔協会が投げてきた。
1フロア1事務所でいけばそこまで難しくないかな?
「しかも期日が5日って7件分だと考えると随分と急いでるねぇ。
お、意外と報酬も弾んでるんじゃん」
メールをスクロールして下まで確認した碧が声を上げた。
そうなんだよねぇ。
何と一部屋20万。
一気に今年の収入が倍増以上した。
まあ、除霊の依頼でどっかに出かけて20万貰うのは普通に相場相応らしいが・・・7件も同じ場所にあると凄く大儲けしているような気分になる。
「丁度いいから、除霊した後に霊の動きがどうなるか確認してみよう」
下の階からの移動は確認しつつ適当な階で結界を張って止めるつもりだが、流石に各部屋に結界を張って歩くのは面倒すぎる。
とは言え、あれだけ至近距離にある霊障案件で除霊して回ったら、悪霊が他の部屋へ逃げないか、ちょっと心配だったんだよねぇ。
うちらが除霊する際に結界を張った部屋と張らない部屋でどんな違いが出るかとか、何通りかのパターンを確認できるのはありがたい。
自分達の仕事を損なわれない様にとは言えボランティアで結界を張りまくるのは良くないが、どう言う動きが悪霊側からあり得るのかを知っておけば報告した後の異変も予測しやすい。
今回は中々有意義な観察対象になりそうだ。
◆◆◆◆
「う〜ん、ここまで瘴気塗れじゃないと分かりにくいけど、碧が除霊すると特効が残る感じだね」
退魔協会から依頼のメールが来た翌日から私たちはさっさと13階に来て除霊を始めた。
で。
まず碧と私が一部屋ずつ除霊していってそのまま放置し、2日ぐらい様子を見て必要に応じて結界を部屋毎もしくは12階との間にでも張ろうと話していたのだが・・・。
フロアの要除霊部屋を半分ほど対処してから元の部屋の様子を見に行ったら、私が除霊した部屋と碧が対処した部屋とで違いがあったのだ。
「なんかこう、普通のお風呂場用洗剤とカビ用除菌洗剤を使った掃除の後をカビが見える特殊レンズで見ている様な感じだね」
碧が自分が除霊した部屋と、私が除霊した部屋を見比べてコメントする。
「確かに!!
除菌効果が残ってる感じだよね!」
私が除霊したところは『霊が居ない』だけで、そのうち別の霊が漂ってきて住み着いても不思議はない感じだ。
意識して瘴気を払わなかったので、このマンションの悪霊に好まれる環境がそのまま残っているんだよね。
ところが、碧も瘴気を払おうとしなかった筈なのに、碧が除霊した部屋は綺麗さっぱり瘴気も無くなって、普通のマンションの様になっているし・・・瘴気が流れ込んでいない。
マジで白魔術師の魔力って悪霊とか瘴気に特効があるんだねぇ。
「あと2部屋ずつだけど、私の分も瘴気も祓って除霊したらどうなるか、確認してみるか」
他のフロアの除霊をする退魔師が『除霊』以外の追加サービスを数ヶ月後に取り壊されるマンションに対してするとは思えないが、そのレベルの除霊をした際に瘴気や悪霊がどの位のスピードで戻ってくるかは確認しておきたい。
でもまあ、碧の能力にこんな除菌モドキ効果があるなら、全部の部屋の除霊が終わってからさっと碧が瘴気祓いをしたら結界を張るより簡単に数ヶ月なら悪霊避け効果を期待できるかも?
シュッとやったら数ヶ月カビが戻らない除菌スプレーみたいだ。
便利だね〜。