真っ黒なんだけど?!
「なんかさぁ、いざと言う時は白龍さまがキャッチしてくれると分かっていても動く時にギシギシ軋むエレベーターって嫌だね・・・」
青木氏がゲットしてくれた建設会社のスペア社用車で現場に来た我々は、まずエレベーター本体とシャフトを綺麗に浄化し、霊が寄り付けない様に結界も設置してから乗り込んだ。
一応エレベーターそのものに悪霊は憑いて無かったけど、空気が悪いマンションなので我々が使って来たらそこら辺を彷徨いている悪霊が巣食い兼ねないと思い、結界で守る事にしたのだ。
「浄化したら圧迫感が少し減ったけど、薄汚れているのは変わらないし。
除霊しなきゃ絶対に解体の仕事を請けないってどの業者も言い切った気持ちが良く分かるね」
浄化してもなんとも言えず鬱々としたエレベーターを見回しながら碧が応じる。
「今時建設業も人を集めるのが大変だって言うし、ちょっとでも霊感があったらこのマンションのヤバさはヒシヒシと感じられるだろうし、絶対に除霊なしだったらこのマンションの解体作業って人集めにめっちゃ苦労するよね」
エレベーターを使っての工機の運び込みは1回で済むかも知れないが、人間はこのエレベーターか、鳥の糞とG塗れな階段しかないのだ。
究極の選択ってやつだろう。
・・・あれ?
考えてみたら、エレベーターは解体を始めて上の階を撤去したら使えなくなるよね?
そうなると、工事用の昇降機でも外壁沿いに設置するのかな?
まあ、その頃には建物全体の除霊が終わっている筈だから霊避けの結界が無くても大丈夫だろう。
多分。
15階に辿り着き、相変わらず一瞬遅れてから開く扉にヒヤリとしてから廊下へ出る。
正面の部屋は既に先日確認したので1号室から確認を始める。
ついでに作業時間もメモっておこう。
各階に掛かる時間も記録しておいたら仕事の進捗状況の把握や完了までに掛かるであろう時間の推定がより正確になる。
「うわぁ、真っ黒じゃん」
解錠して扉を開けた碧が嫌そうな声を上げて足を止めた。
「霊が居なくても黒カビを吸い込んで健康を害しそう」
つうか、霊障無しの部屋で霊が居ないのを確認する為に時間をかけて見回っていたら体に悪そうだ。
夜の方が虫が色々出て来そうだったしまずは色々と慣れるまでは明るい方が良いだろうと日中から仕事を始めてみたのだが・・・これって真夜中に来て霊を早く見つける様にした方が健康の為に良いかな?
まあ、碧がいれば黒カビを吸い込んでも大丈夫なんだろうが。
と言うか。
「白魔術でカビの退治って出来ないの?」
ある意味、悪霊の浄化と同じじゃない?
私の質問に碧が暫し考え込んだ。
「まあ、特定の生命を殺すのは可能だからカビを退治するのも出来ると思うけど・・・こんなにびっちりカビが生えていたら除菌でめっちゃ霊力を使う事になるし、その分費用を払って貰える訳でも無いし、折角綺麗にしても数ヶ月後には取り壊すんだから、意味なくない?」
「・・・確かに。
出来るだけ隙間のない立体的な防塵マスクを毎回新しく使う様にしようか。
後は・・・必要がありそうだったら花粉症用のゴーグルっぽいメガネを買っても良いかもね」
人の魔力だからって安易に除菌を提案するなんて、間違っていた。
ちょっと最近碧に頼りすぎかな?
気をつけよう。
黒カビの中を出来るだけ空気を吸わない様に(そんな訳にもいかないけど)動き回って探したが、1号室は悪霊なし。
マジか。
こんだけカビが生えるなんて絶対に霊障だと思ったのに。
もしかして壁か天井の防水素材に問題があって雨水が染み込んでるの??
マンションなんて上の方の階になればなるほど高いのに、最高階の角部屋が黒カビでガビガビだなんて、マジで欠陥工事だったんじゃ無いかね?
酷い。
『うん、やっぱり居ないにゃ!』
部屋中だけでなく天井裏やクロゼットの中などまで確認させたクルミも霊障無しと言ってきた。
一応帰る前に残して行って、夜中にも出てこないのを確認してから召喚し直そうかなぁ。
ここまで酷いのに悪霊化しなかったなんて、この部屋を買った人は中々心(と体もだろうな)が強かった様だ。