魅惑の誘惑
結局、先日の除霊版FPSの傍にあった石碑は何の関連なのかはネットで調べても分からなかった。
それこそ地元の図書館にでも行って古い資料を調べたら何かあっただろうが、古い文書の文字を読めない可能性が高いし、そこまで興味もなかったのでスルーした。
退魔協会からもボランティアな浄化についてクレームが来るなんて事も無かったし。
と言う事で平穏な毎日に戻り、碧は魔道具+源之助妨害付きオンラインゲームでの腕を上げ、私は何種類かのお守りを試作して藤山家の方に送ってそれらしい名称で売れるか試してもらっているところだ。
ちょっとした集中力アップとか記憶力アップのを合格祈願、眠気覚ましのを交通安全と言う名目にしたが・・・どうだろうね?
自分である程度使ったから第三者に試用してもらっていないけど、気のせいかも?程度の効果しか付けていないので危険は無いと思う。
一応、半年程度で買い替えるよう注意書きしてあるが、うっかり切らして受験する事になっても極端に問題は無い筈なレベルだ。
自覚できる程の効果を持たせると切れた時の能力低下が少しキツいかも知れないので、意図的に『ちょっと役に立った・・・かも?』程度に抑えたから評判になって売れまくる事はほぼ無いだろう。
まあ、評判にならなくても、気休めで買ったお守りが誰かの役に立ったらそれはそれでプラスなカルマを齎すかも知れないし。
そう思いつつ大学に通う傍ら、しこしことお守りを作る毎日だ。
それはさておき。
「なんかこう、今日のパスタって随分と柔らかいね。
ここまで茹でるならナポリタンとかカルボナーラの方が良くない?」
我々の夕食当番はそれ程きっちりとは決まっていない。
夕食を作れる時間帯に両方がマンションにいた場合、順番にやる事になっているだけだ。
なので『夕食当番だから帰らないと』とか言った問題は無い。
まあ、源之助が来てから碧の在宅率が跳ね上がったので、基本的に私の予定で決まっているようなものだが。
お蔭で碧の料理の腕とレパートリーもかなりグレードアップした。
なので今日のやたらと伸びたパスタは最近としては珍しい。
私はそこまでパスタの茹で具合に拘りがある訳では無いが、流石にペペロンチーノに伸び伸びなパスタだと違和感を感じる。
元々かなり柔らかいナポリタンとか、食べている間にソースを吸って柔らかくなるカルボナーラならまだしも、ペペロンチーノでこれは無いだろう。
「あ〜、ごめん。
パスタを茹でている時に源之助が足にすりすりしてきたから、撫でたら喉をゴロゴロ鳴らし始めたもんで、ついつい源之助の魅惑の誘惑に負けちゃって・・・気がついたら茹で時間が大幅に過ぎてた」
一口食べてちょっと顔を顰めた碧が謝って来た。
魅惑の誘惑ってなんじゃねん。
まあ、確かに喉をゴロゴロ鳴らされると撫でるのを止められなくなる気持ちは分かるが。
猫って本当に、こっちが何かしている最中とか何かをする為に立ちあがろうと考えた瞬間に寄って来るよねぇ。
マジで読心能力があるんじゃないだろうか。
クルミに聞いたら、『本能にゃよ』とイマイチ意味の分からない返事が返ってきたが。
本能でこっちに都合が悪いタイミングが分かるのか、それとも人間が『今ちょっと忙しいの!』と思っている時に近づいて愛を試したくなる本能なのか。
ちゃんと念話が出来るのに、イマイチ意思疎通が出来ないところも猫だよねぇ。
あの気ままで我儘なところも堪らないんだから、マジでうちらは魅了された下僕だ・・・。
「味は悪くないから、まあ構わないよ。
流石に天ぷらとか揚げ物をしている時は台所の扉を閉めて源之助を締め出す方が良いだろうけど」
一応、台所のカウンターやコンロ、シンクなどに飛び乗らない様に認識阻害の結界を設置してあるが、碧本人にじゃれつくつもりでジャンプされて鍋がひっくり返る可能性はゼロでは無い。
碧が居れば揚げ物の油がかかって大火傷を負っても死なないで済む可能性は高いが、火事になったりしたら話は別だ。
白魔術師が火事の中で煙に撒かれても一酸化炭素中毒を癒やし続けられるかを試したケースは前世でも無かった。
一酸化炭素中毒で死ななくっても燃え盛る天井が落ちてきたりしたらヤバいだろうし。
うん。
そう考えると、台所そのものを侵入しないようにしたいぐらいなんだけど、餌の匂いとかがする場所って全体的な認識阻害は上手く効かないんだよねぇ。
一番無難なのは、揚げ物はお惣菜屋かデリカテッセンで買ってくる事かな?