ほぼ役立たず・・・
廃工場の倉庫っぽいスペースから建物に入って、次々と姿を表す悪霊を古い機械の影に隠れながら水鉄砲で退治しつつ奥へ進む碧。
隠れても悪霊は機械をすり抜けて出てくるからあんまり意味ない・・・と言うか邪魔なだけだと思うんだけどねぇ。
出てきた悪霊に水を浴びせてサクサクと浄化させていたが、やがて水鉄砲もそれの補充に使っていたペットボトルも空になった。
「そっちの水鉄砲も貸して?」
ぐるりと振り返り、碧が私の使っていない水鉄砲を没収して強引に魔力を注ぎ込む。
あらま。
黒魔術師と白魔術師の魔力込めるとどうなるんだろ?
視たところ、どっちの魔力も残ってる。
魔素が殆ど入っていない水だから、注ぎ込める魔力の量が多いみたい?
火と水みたいに反発するかと思っていたけど、白と黒魔術の魔力って正反対という訳では無いようだ。
ちょっと意外。
「これで私が水を補充している間、カバーしてくれる?」
水鉄砲を私に返しながら碧が頼んでくる。
「了解〜」
別に、水鉄砲なしで普通に術でも除霊出来るんだけどねぇ。
まあ、今日のテーマから外れるし、碧の魔力を使えるか試してみるのも面白そう。
キャリーカートに載せて持ってきた4リットル入りの水の容器からペットボトルに補充しながら碧が辺りを見回す。
「意外と湧きが良いと言うか、悪霊が多いわね。
病院でもない場所でそんなに死者が出たとも思えないんだけど」
左の方から悪霊が出てきたので水鉄砲で私が攻撃する。
ちょっと距離があって外しそうだったのでワイドに角度をとって攻撃したら、ちゃんとほわぁっと消えていった。
どうやら碧の魔力の方が多いお蔭で穏やかに除霊出来るようだ。
黒魔術師でも水鉄砲を使えば白魔術師的に除霊が出来るとはねぇ。
ちょっと感激。
考えてみたら、符を使ってだって似たようなことは出来るけどさ。
単に金が掛かるからやらないだけで。
私は別に自力の術で普通に除霊出来るんだから、無い物ねだりはしないでおこう。
「かなり古い霊も混ざっているみたいだし、もしかしたら近くに古戦場があったとか、飢饉や疫病で過去に大量に死者が出た地域なのかもね」
考えてみたら、暴力団の下部組織同士の抗争とかならまだしも、こんな辺鄙な田舎の暴走族の溜まり場で問題になる程の数で人が死ぬのも普通じゃないだろう。
まあ、『辺鄙な田舎』って私が思っているだけで、実は大々的な暴走族組織があったのかも知れないけど。でも、人口密度的に厳しいんじゃないかと思うんだよねぇ。
それとも、この工場が稼働していた頃はそれなりに工員やその家族が沢山周辺地域に住んでいたのかね?
確かに大型モールぐらいのサイズがある巨大な工場跡地だけど。
「そっか、輪郭がぼんやりしているのって恨みがそれ程無いからじゃなくって、古くて摩耗しているからなのか。
大部分は峠とかで交通事故で死んだ人の霊とかで、それ程恨みが無いのかと思ってた」
大きな容器をキャリーカートに戻し、補充したペットボトルも鞄に入れてフルになった水鉄砲を構えながら碧が応じた。
おいおい。
地縛霊ならまだしも、比較的自由に動き回っている時点で恨みのない交通事故の被害者って言う線は無いでしょ。
・・・まあ、考えてみたら私の知っている霊って前世のケースが殆どだから、交通事故の霊って前世の事故死の霊と違うのかもだけど。
あっちでは魔物に食われたとか、盗賊に襲われたとか、貴族に切り捨てられたとか言った『殺されて』死ぬ事が多かったからか、不注意からくる事故で死んだ場合って比較的あっさり霊が諦めて上天したんだよねぇ。
そんな事を話しながら、碧の無双が再開。
ぐんぐん霊を倒しながら工場のメインな広い部分を虱潰しに除霊して周り、最後に2階にある事務所スペースも覗き込んでそこにいた霊も除霊。
階段が錆びてて怖かったが、ぐいぐい力を込めて引っ張ってみても特に動かなかったので登ってみたが意外と揺れなかった。
流石日本製。
「この工場跡って壊してまた別の工場を建てるのかな?」
折角ここまで頑丈に作った階段も除霊が終わったら捨てられると考えるとちょっと勿体ない。
せめてスクラップメタルとして再利用されると期待しておこう。
「なんかこの地方全般をカバーする大型流通センターにするらしい。
最新式のロボットちっくなカート?やAIを駆使した、少人数で動くオートメーション路線な場所にするんだって」
なるほど。
確か地図で見ると大きな高速道路が比較的近いし、オートメーション化を最初からやっておくなら荷を大量に保管しトラックを駐車できるスペースがあれば人間はそれ程雇えなくても良いのかも。
最近のネット販売の様相を考えると需要がありそうだけど・・・地域の雇用にはあまり貢献しなそう。
人が居ないから産業が成立しないのか、産業がないから人が居ないのか。
悪い意味での卵と鶏理論的な問題だね。
取り敢えず。
一通り敷地内の除霊が終わったら、更に霊が流入してくる方向があるか一応確認しておこう。
今日は殆ど何もしてないからね〜。