実戦?
ピシャァ!
「おっしゃあ!」
碧の水鉄砲が当たり、ふわぁっと悪霊が薄らいで姿が消えた。
「次!」
右から寄ってきた悪霊に碧が振り向き、片膝をついて水鉄砲を構えて撃ったが、今回は外した。
なんか海外の刑事モノで犯人を追っかけて銃撃戦になったような動きだねぇ。
日本の刑事は余程の事がない限り銃をぶっ放したりしないから、ある意味ドラマとかで犯人を追いかけていても緩いんだよねぇ。
海外のドラマではいつ犯人が銃を撃ってくるか分からないからそれなりに緊張感がある。
とは言え、考えてみたら音で他の刑事を呼び寄せるのを避ける為か、銃で撃たれるよりも後ろか殴られるシーンの方が多いか。
プロの癖に警戒しているのに素人にバックを取られるなんてダメじゃんって毎回思うけど。
とは言え。
「向こうから遠距離攻撃してくる訳ではないんだから、片膝つかなくていいんじゃない?」
片膝を付く体勢は体の面積を小さくして攻撃を避ける為だろう。
そう考えると悪霊相手なら態々体を動かすより、立ったまま狙いをしっかり定める方が合理的だ。
「そうだけどさぁ、やっぱり銃を撃つならそれっぽいアクションもやりたいじゃん?」
片膝をついたままの体勢でもう一度悪霊に水鉄砲を撃ち放ちながら碧が応じる。
今度はしっかり当てた事を考えても、アクションを取りながらの射撃って命中度を下げるだけな気がするけどなぁ。
「まあ、良いけど。
あんまり近づかれ過ぎないようにね」
この程度の悪霊だったら大量に集られないかぎりドレイン攻撃効果も微々たるもんだけど、攻撃を受けないに越したことはない。
「うん。
凛もやってみたら?」
持ってきたペットボトル入り聖水モドキで水鉄砲を補充しながら碧が提案した。
「多分ダメだと思うけど、まあやってみるか」
碧が補充している間に一体ぐらい試してみてもいいか。
水鉄砲持ち出し、水に除霊の意思付きの魔力を込めてから左に現れた悪霊を攻撃する。
『ぎゃぁぁぁぁぁ!!』
頭から肩に掛かった水が悪霊の顔と首や肩を溶かし、まるで酸でも掛けられたような形相になりながら悪霊が悲鳴をあげ、煙を出して苦しげに足掻きながら消えていった。
「・・・ここでの除霊は譲るわ。
水鉄砲に飽きて普通の除霊をするようになったらやるから、声を掛けて」
あまりの酷さに思わず沈黙したが、諦めて水鉄砲をカバンの中にしまいながら碧に宣言する。
ちょっとあれは無いわ・・・。
「・・・そうだね。
今日は私に任せて」
碧もコクコクと頷きながら同意した。
碧の魔力だとふわぁっと薄らいで消えるだけなのに、なんだって私の魔力じゃあ駄目なんだろう。
黒魔術師は霊を除霊できるけど、除霊という術の形にしないと魔力の攻撃効果が除霊効果よりも強過ぎるのかな?
そう考えると、もしかしたら黒魔術の浄化用の術って魔力の特効をある程度弱めて『霊を滅する』のでは無くもう少し『穏やかに除霊する』為の浄化効果を付け加えているのかも。
白魔術師の魔力だって特効があるのに、何故にこうも違いが出るのか不思議だ。
まあ、良いけど。
取り敢えず、量も形も定まっていない水鉄砲の水に術を固定するのは難しいから、FPS的に除霊したいならBB弾にでも術を込めて水鉄砲で撃ち出す形にでもしないと駄目かな?
「はっ!」
私がそんな事を考えている間に、碧が壁際まで走り寄って一瞬扉の横で身を隠した後、ガバッと建物の中へ突入した。
なんかFPSゲームで見たような動きだけど、そんなに走り回っていたら疲れるんじゃない?
集中すれば悪霊がどこにいるのか感知できるし、悪霊は基本的に遠距離攻撃はしないから意味が無い回避行動なんだけどねぇ。
これって同業者に目撃されて、SNSにでも動画を流されたら絶対に立ち直れなさそう。
まあ、友人だし色々教えてくれる恩人に近い存在だから、目撃者が一人ぐらいだったら記憶を消してあげよう。
と言うか、他に近づく人間が居ないか精神感知範囲を広げておくか。
ドローンとかで動画を撮られたらどうしようも無いが、こんな何もない辺鄙な田舎にある廃工場へドローンを飛ばす暇人は居ないだろう。
多分。