ずる?
「きゃ〜、源之助、どいて〜!!」
魔力で身体能力を上げてオンライン対戦で無双する誘惑に勝てなかった碧が、ゲームを取り出して試したところ・・・動くテレビ画面に注意を引かれた源之助が敵兵に襲い掛かり、パシパシと猫パンチを繰り出し始めた。
今までは源之助が寝ている時にミュートにして遊んでいたんだけど、起きているとこうなるんだよねぇ。
「大体敵の位置は分かるでしょ?
源之助越しに撃てば?」
まあ、スクリーンの前で興奮してパシパシとモグラ叩きみたいな動作でテレビを必死に叩いている源之助が微笑ましくて、集中できないかも知れないが。
「FPSは奥に動きが見えた瞬間に撃たないと駄目なんだよ。
源之助がいたら反応が遅れるの」
溜め息を吐いた碧はゲームをギブアップしてソフトを落とし、説明してくれた。
どうやら源之助が寝るまで諦めるらしい。
成る程。
奥に動きがあったら直ぐに撃たなきゃいけないのか。
私はしっかり人影を認識するまで待っていたから、いつもボロ負けしたんだね。
◆◆◆
オネムになった源之助がキャットタワーの上で寝始めたので、碧がソフトを再び立ち上げ対戦を始めた。
最初は普通に。
やがて徐々に魔力(本人的には『霊力』なんだろうけど)を目に集め、やがて手の反射速度を早める為にか肩と腕、手にも魔力を込め始めた。
「おお〜。
やっぱりいつもより早いね〜」
ナイフや剣を使った戦闘と違ってゲームなので『目に見えない様な高速で動く戦い』というのは無いが、ブーストしていない視力では画面の中の動きが追いきれない様な速度でガンガン敵を撃ち殺し始めたっぽく、右上の得点がどんどん積み上がっていく。
そしてプレイヤーが画面の中で一気に前にダッシュして角を曲がり、待ち受けていた敵の集団を凄い精度で倒し始め・・・。
グアシャ!!!
ゲームのコントローラーが碧の手の中で潰れた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
突然インプットが途切れたせいか、画面の中でプレイヤーが棒立ちになって袋叩きに合い、あっけに取られた碧が復活する前に『Game ... Over!』と言う真っ赤でぼろぼろな字が画面に流れた。
「ありゃりゃ〜。
動体視力だけアップするか、もう幾つかコントローラーを壊す覚悟で本気になっても手の力を込めすぎない練習をした方が良さそうだね」
前世で魔力ゴリ押しパワーアップの際は剣やナイフで戦うか素手で殴りあうことが多かったかし、基本的に身を守る為に戦っていたから力をセーブする必要は無かったけど・・・ゲームで使うなら力を込め過ぎちゃダメだよね、考えてみたら。
「・・・練習で何とかなるの?」
下を向いて手元の握り潰したコントローラーを見つめたまま、碧が低い声で尋ねる。
「剣でもナイフでも、戦う時に柄を力一杯握りしめていたらデリケートなコントロールが出来なくなるから丁度いい強さまで力を抜いて握れって教わるし、出来るんじゃない?」
私の場合は武器を使う才能があまり無かったから、単純に足先や鳩尾、男の急所等を蹴って逃げろと教わったけど。
後ろから掴まれた時用に肘鉄や頭突きのやり方も習ったね。
どれも相手を蹴り抜くつもりでやれと教わったから不要な部分に力を込め過ぎない戦闘訓練は必要なかったけど、ナイフをそこそこ上手く使えた同期は適度に手の力を抜きながら戦い、攻撃の一瞬だけ力を込める訓練をしていた。
「・・・反射速度を速くする魔道具って作れないかな?
動体視力だけだと手の動きが意識に対応しきれないんだよね。
命の危険が迫った時に何もかもがゆっくり見えるって言うじゃん?
あんな感じに体感速度を早くする魔道具があったらコントローラーを壊さないで済むと思わない?」
壊れたコントローラーを下に置いた碧がぐいっとこちらに体を乗り出して尋ねてきた。
訓練よりは魔道具だなんて、安易だぞ〜。
便利な世の中に慣れていると、時間の掛かる訓練よりもまず道具でなんとか出来ないか考えるんだろうね。
まあ、たかだかゲームの為にガッツリ修練しろと主張するつもりは無いから、魔道具で便利なツールが作れたらそれもありか。
とは言え。
「なんかさぁ、魔力でパワーアップするのは自分の能力の一つって気もするけど、魔道具で都合が良いようにパワーアップするのってやっぱちょっとズルくない?」
それで構わないと言うなら協力するけどさ。
「う"〜〜〜〜」
碧が頭を抱えて悩み始める。
あまり声を上げると源之助が完全に起きちゃうぞ?
さっきの悲鳴で目を覚まして、キャットタワーの上から首をこっちに出して眠そうに見てるんだから。