パワーアップ出来るでしょ?
『(きゃ〜!源之助の欠伸が可愛い過ぎる!!)
失礼、虫除け魔道具が出来たよ〜』
寝室にタブレットを取りに戻っていたら碧から念話が伝わって来た。
昨日からの練習で、碧の念話はかなり上達して殆ど普通の会話と変わらないぐらいの精度になったが、時折源之助が可愛い動きを見せると愛が溢れ出て念話に紛れ込む。
まあ源之助の可愛さは確かに急所を抉るレベルだから、しょうがない。
『お、ありがと〜。
眠気覚まし魔道具の他に、何かいる?』
タブレットを手に取ってリビングに戻りながら尋ねる。
練習も兼ねて色々作った方がより早くこっち流の作り方に慣れるし、何か面白いアイディアを思いつくかも知れないしね。
虫除けは取り敢えずGと家にいたダニだけを排除する効果のを頼んだ。
夏になって蚊の生体指標をゲットしたら蚊避け効果も追加すると碧が言っていた。
どうせなら蜂や蝿避け効果も付け足して欲しいところだが、狙った虫の生体指標の入手が中々難しい。
生きた虫のいる昆虫博物館とかってあるのかな?
でもエキゾチックな蜘蛛とか歴史的価値のあるかも知れない蚕とかと違って、蝿や蜂ではイマイチ客寄せにならないからなぁ。
まあ、生肉でもベランダに出しておけば確実に蝿なら湧くだろうが、そこまでやりたいかは微妙なところだ。
『う〜ん、暗視の能力を付与してくれるような魔道具って出来る?
夜中に起きてトイレに行く際に、時々暗い廊下でうっかり源之助を蹴飛ばしそうになるんだよねぇ』
碧がちょっと意外なリクエストをしてきた。
『霊視しながら歩けば源之助がいるのは視えるでしょ?』
と言うか、簡素的な暗視能力は魔力のゴリ押しで出来るし。
『おお、そうだった!
霊視って退魔に行く時しか使わないから忘れてたよ』
のほほんとした返事が碧から返ってくる。
『つうかさ、目に魔力を集中したら網膜の光受容能力がパワーアップして、猫程度の暗視能力を得られない?
双眼鏡とか虫眼鏡程度の機能強化も可能な筈だよ?』
魔力を筋肉なり神経なりに過剰につぎ込む事で一時的に能力アップするのは比較的簡単だ。
視神経や網膜の能力アップも当然可能なので、夜行動物程度の暗視能力とか猫程度のジャンプ力とかなら魔術師は特にさしたる訓練なしでも得られる。
ただまあ、あまり酷使しすぎると筋肉痛になったり頭が痛くなったりするけど。
そんな時は白魔術師だと痛みも消し去れるから便利なんだよねぇ。
前世でも、極短時間だったら魔術師も肉弾戦が出来るよう魔術学院で近接戦の初歩は教わっていた。
まあ、その後に全然訓練しなかったから基礎の筋力が足りなくって、王宮のプロ相手には話にもならなかったけど。
それでも街中を歩いていてうっかり裏道に迷い込んでも、栄養失調気味なゴロツキ程度だったらがっと一発殴って逃げられるぐらいにはパワーアップ出来た。
道に迷っていて方向を間違えると表通りに辿り着く前に体力が尽きたけど。
まあ、そうなったら魔術で周りを吹き飛ばして罰金を払うだけだ。
今世も薙刀と合気道を高校である程度習ったから、ゴロツキ相手ならガッツリやれると思う。
こないだの誘拐の時は下手に抵抗して話が拗れる方が面倒だと思ったから目的地についても何もしなかったが。
流石にナイフを突きつけられた時は突然だったんで頭の中が真っ白になって、言われた通りに動く以外の事は考えられなかったんだよねぇ。
王宮魔術師だった頃はそれなりに物騒な事にも巻き込まれたし、命のやり取りも多い社会だったから襲われる危険は常に頭の片隅にあって常に精神的には臨戦状態だったんだけど。
日本は安全だから、暴力の可能性があることすら忘れていたよ。
それはさておき。
「本当だ、遠くが見える!!!」
リビングに行ったら、窓辺に碧が立って外を見ていた。
もしかして今世では魔力を集中して能力アップするのに何かコツがあるのかと思ったけど、単に日常生活が便利すぎてやろうと思わなかっただけらしい。
「ちなみに、反射神経とか動体視力もこれでパワーアップ出来るのかな?
出来るとしたら、対戦ゲームとかFPSゲームとかで無双出来そうじゃない??」
ワクワクした感じで碧がこちらを振り返る。
そう言えば、碧って源之助を迎える前はちょくちょくオンライン対戦で勝利の雄叫びを上げてたよねぇ。