ラミネート再び
「考えてみたら和紙じゃあ直ぐに破れるよねぇ」
魔道具を和紙で作ったのは初めてだったから耐久性なんぞあまり気にしていなかった。
耐久性に問題ありのようだが・・・和紙に含まれる魔力があるからこそ雑草の切れ端だけで魔道具として機能するのだ。
和紙ではないプラスチックや木材、金属片なんかを使う場合はもっと多くの雑草・・・か何か魔力を多く含む素材が必要になるからなぁ。
しかも魔力を含む和紙だったら魔力で魔法陣を描いて焼き付けられるが、魔力を殆ど含まないこの世界の普通の素材を使う場合は魔法陣を魔力を含む素材で描かないとすぐに魔法陣が崩れてしまうだろう。
「聖域の板でも使う?」
碧が提案した。
「う〜ん、数が限られそうじゃない?
取りに行って見つけるのも大変そうだし」
あの聖域の谷は小川と川辺、ススキの様な雑草とひょろっとした木が数本あっただけだと思う。
そう考えると魔法陣を刻めるほど大きな木片はあまりないだろう。
「・・・じゃあ、取りに行かなきゃいけないのは変わらないけど、あの雑草を編んでミサンガみたいな感じにするのはどう?
揉みほぐして柔らかくした上で染めたら何とかならない?」
碧の提案を検討する。
確かに和紙だってそれなりに繊維質なんだから、その素材であるススキもどきだって解し方に気をつければそれなりに繊維が採れそうだ。
編むのも解して紐(糸?)にするのも大変そうだけど。
「和紙にする手間が入らない分、作りやすくなるかな?」
植物を糸にする手法自体は知らないけど。
ネットで調べたら何とかなるかな?
「ちなみにさあ、和紙の魔道具をラミネートして、初心者用のヘルプ機能は無しにちょっと本音ダダ漏れ状態で頑張るのはどうかな?
ラミネートで全体を覆っちゃうとヘルプ機能を使うのは難しくなるけど、本体部分をごり押しして使う分には問題ないよ?」
ふと思って提案してみる。
本音が聞こえちゃうと友情にヒビが入る可能性もあるが、そこまで行く前に碧が念話に慣れるだろう。
多分。
ラミネートすればそれなりに長持ちするはずだし。
前世の寒村時代は村全体で飼っていた羊っぽい動物の毛を村の女総出で紡いで冬服とかを編んだが、あれって意外と大変だったんだよねぇ。
脂まみれで汚れているとは言え、既に糸っぽい感じになっている動物の毛であれだけ紡ぐのが大変だった事を考えると、ススキもどきの繊維を取り出して紡ぐのってかなり大変そうだ。
ミサンガを編む(織る?)のもそれなりの手間だろうし。
そう考えると、和紙をラミネートする方が楽そうではある。
「・・・ちょっと先にラミネートを試そうか」
ススキモドキをミサンガに変えるまでの手間を考えたのか、暫し沈黙して考え込んだ碧はあっさり私の提案に乗った。
まあ、ミサンガも夏用と考えて準備しておいても良いかも。
それまでに碧が念話に慣れるだろうし、ミサンガにしても初心者用ヘルプの設定は難しそうだからヘルプは抜きでいいかな?
あれだけ細いのに魔法陣を組み込む事自体が大変だろう。幅を広くして三つ折りにでもしたら良いかも知れないけど、それだけ編むのも手間だし。
考えてみたら、ミサンガにするならそれなりに鮮やかな色に染める必要もあるが・・・素人が染めた素材なのだ。
汗をかいたり洗面所で濡れたりしたら色落ちしそうで怖い。
うん、夏になるまでに色々実験しておこう。
「ん。
ちなみに、和紙にする素材を使って布を作ったりはしてないの?」
製造物の多角化もあったっていいと思うが。
「あの和紙は符用だから高く売れるんだよ?
布製の符は無いから、単なる伝統工芸で布を作ってもコスト的に赤字」
碧が溜め息を吐きつつ説明してくれた。
考えてみたらそうだった。
符に使うから割増料金を取れるんだろう。
と言うか、大して広くも無い範囲で生える植物を使った小規模製紙なんて費用効率は絶対に悪いだろうなぁ。
そう考えたら符用と言う追加的価値目当てに割高に売り出さなきゃペイしないよね。
「・・・考えてみたら碧なら蚕をがっと育てられるんじゃない?
聖域でちゃちゃっと育てたら生糸が採れるよ、きっと」
蚕は特定の桑を食べさせなければいけないはずだが、碧がいれば適当な雑草を食べさせても健康な状態に出来るのでは無いだろうか?
桑じゃない葉を食べるように蚕を騙すのは私が出来る・・・よね、多分。
まあ、そんな力技で無理やり成長させた蚕の生糸の品質が良いかはかなり怪しいが、用は足す可能性はそれなりにある。
「無理!!
蚕って大きな青虫じゃん!!!
あんなの育てるのも、面倒見るのも、糸をゲットするのも無理〜〜!!」
碧がブルブルと首を横に振った。
おいおい、急に大声を出したら源之助が驚くよ?
まあ、確かに聖域の雑草を食わせつつマンションの部屋の中に置いてある箱で青虫を育てるって言われたら私も嫌だな。
家の中に虫の入った箱があると思うと夢見が悪くなりそう。
「・・・そうだね。
ラミネートで済ませて念話の練習をちょっと頑張ろう!」
多少なら関係ない本音が漏れても大丈夫だろう。
きっと。