魔道具
『どう?』
念話の和紙製魔道具を通して碧にコンタクトする。
まあ、同じ部屋の食卓とソファに座っているんで、声を掛ける方が早いんだけどね。
「おお〜!
ちゃんと凛の念話が聞こえる!!
マジもんの魔道具だ〜〜!!」
碧が嬉しげに声をあげた。
念話なんて今までだって使い魔経由でやっていたし、手を触れたら直接出来ていたのに何をそんなに感激しているのかと思ったら、『念話』ではなく『魔道具』の方に喜んでいるようだ。
こっちの世界では魔石がないせいで魔道具は家宝レベルだと言っていたっけ?
まあ、和紙と聖域の雑草で作った魔道具モドキなんでせいぜい数ヶ月しか持たないだろうから、どう考えても家宝レベルじゃあないけどね。
取り敢えずは定期入れに聖域の雑草を包んだ和紙を入れた形にしたが、もう少し身に付けられる形の方が良いだろう。
ポケットに入れておく分には定期入れでも悪くないかも知れないが・・・出来ればブレスレットか髪飾りの様な、どんな場面でも手で触れても不自然じゃあ無い物の方が誰かと話している際にこっそり相談するのに都合がいい。
ジーパンを履いているなら後ろポケットにでも定期入れを忍ばせておけばそっと手で触れるのは可能だが、ジーパン以外の女性の服装だとポケットがあるか否かは五分五分以下だからなぁ。
寒い時期ならもっと確率は高いが、暑い時期の薄着だとポケットなんて無理な服が多い。
例えポケットがあっても、薄い夏用の生地じゃあ実際に物を入れたら服のラインが崩れる可能性が高いし。
携帯ケースに差し込むのもありだが、誰かと話している時に携帯を取り出すのは失礼だからさりげなく念話をするのは難しい。
『そっちから念話出来る?』
念話程度の術だったらそれ程魔道具が摩耗するとは思わないが、どの程度使ったら壊れるかも確認しておく方が良いだろう。
まあ基本的に携帯があるし、もしもの時に壊れてたってクルミとシロちゃん経由で連絡は取れるから、ある程度の耐久性が確認出来たらそれ以上はやらなくても良いんだけど。
『ここに指を触れてやればいいんだよね?
どう?』
碧から念話が届く。
『うっし、大丈夫だね。
一応非常時用に、本体にガッツリ魔力を流し込めば直接触れてなくても念話は使えるようになっているから慣れたら後でそっちも試してみて。ただ、慣れていないとうっかり伝えるつもりが無かった考えまで伝えちゃう可能性があるから気をつけてね』
多分シロちゃんに念話している時だって関係ない思考もダダ漏れしていると思うが、動物霊ってかなり大らかだから矛盾する命令を出されたりしない限り無視していると思うんだよねぇ。
まあ、現代社会で誤爆ゼロになるまで念話をしっかり練習するのは難しいから、気にしなければ良いだろう。
碧が念話用魔道具を私以外と使う為に欲しいと言ってきたらしっかり練習する様伝えるつもりだけど。
『了解〜。
じゃあ、飲み物を買いに行くついでにどの位の距離まで使えるか、試してみようか』
買い物用のエコバッグを手に取って碧が提案した。
『あ、ミルクもついでにお願いね』
食材はネットスーパーで揃える事が多いのだが、ちょっと飲み物が足りない時なんかは買いに行く方が早い。
今日は午前中に碧の好きなジンジャーエールが切れたので買いに行く準備をしていたのだが、私の魔道具製作が完成しそうだったので待っていたのだ。
『私、碧さん。今、一階に着いたの』
『私、碧さん。今、角のコンビニの前にいるの』
『私、碧さん、今、スーパーに着いたわ』
『私、碧さん、ちょっと遠回りしようと思って駅の方に来たんだけど、荷物が重いの・・・』
『私、碧さん、今、本屋さんの前に着いたの』
『私、碧さん、今、西側の角・・』
どこかのホラー電話の如き念話を送って来ていた碧のコンタクトが突然切れた。
あれ?
もう魔道具が故障??
随分と早いね。
まあ、和紙製の魔道具なんて作ったのは初めてなんだけどさ。思っていたよりも和紙が脆かったのかな?
和紙の耐久性をどうやって上げるか考えていたら、ピクリと源之助が耳を立てたと思ったら徐に体を起こした。
「ただいま〜!
ごめん、汗ばんだ手で触ってたら千切れた!」
バタンと玄関が開き、碧の声が響く。
へぇ。源之助って出迎えはしてくれないけど、帰宅はちゃんと事前に把握しているんだね。
しっかし。
和紙って濡れると弱いんだっけ。
荷物を持って歩き回ったら秋でも汗ばむよねぇ。
真夏じゃなかっただけまだもったのかな?