淘汰?
「大学で久しぶりに八幡先輩にばったり会ったんだけど、最近サークルの方で退魔師弟子入り詐欺モドキが問題になってるみたい」
家に帰って碧に報告した。
「はぁぁ?」
振り回していた猫じゃらしを源之助へ一時的に譲り、碧がこちらに向いた。
「絢小路先輩って4年に居たじゃん?
どうも就職活動に失敗したのか、社会人になるのが嫌になったのか、突然退魔師に弟子入りするって言い出したんだって。
で、後で退魔の技をこっそり教えるから弟子入りに必要な100万円のうちの幾らかをカンパしてくれってサークルの皆に持ちかけてきたらしい」
つうか、ねずみ講モドキに皆を弟子入りに誘うならまだしも、自分の弟子入り費用を負担してくれって微妙すぎる。
サークルの誰かに才能があるにしても、魔術を教えられる様になるまで何年掛かるって言っているんだろ?
ある意味、絢小路先輩は詐欺のつもりは無く、単に考えが甘いだけなんだろうなぁ。
暫し私の言葉を吟味してから碧がコテンと首を傾げた。
「絢小路さんってあの京都の旧家だって人だよね?
先祖の陰陽師時代の物を大学のサークル仲間に見せて自慢するほど業界に実感が無いんだったら、今生きている親族で退魔協会に登録している人間は居ないんじゃない?
最近では絢小路って退魔師の話を聞いたこともないし。
『陰陽師』じゃなくって『退魔師』って言っているなら微妙に現実味はあるけど、本当にちゃんとした退魔師に弟子入りする話になっているのかしら?」
おや。
陰陽師の家系って話なのに現役の退魔師はいないんだ?
「それに、京都の陰陽師系の旧家らしいから遠い親戚とか旧家仲間で本物の退魔師が居て弟子入りする事になったとしてもさ、大学4年に終盤近くになってから弟子入りって遅く無い??
才能があるならもっと早い段階で始めるでしょう?」
新しい技能を覚えるには10代の方が良い。
22歳では魔術を習い始めるにはちょっと遅い気がするんだが。
「う〜ん。
どうだろね?
絢小路家って確か戦前までは退魔師だったけど、その後は一般人としてやってきた筈だから才能を確かめてこなかった可能性も高いかも。
就職活動が上手くいかなくて、伝手を辿って退魔師になれないか聞いてみた可能性はあるね」
碧が猫じゃらしを源之助から取り返しながら説明した。
へぇぇ。
よっぽど就職活動が上手くいかなかったのかね?
それとも気楽な学生時代が終わりに近づいて、普通の社会人が嫌で悪あがきしているのか。
「でもさあ、退魔師の技を勝手に一般人に教えて良いの?」
ある意味、退魔協会って前世の職業ギルドみたいなものだろう。
前世ではギルドの独占を危うくする技術漏洩はかなり厳しく取り締られたんだけどなぁ。
当然親方たちは誓約魔術で縛られていたし、親方になり損ねた人間が親方の元を去ってからも研究を続けていたら、いつの間にか行方不明になったって話を時折聞いたぞ。
現代社会では独占禁止法とかがあるから業界の情報独占の為の制裁なんて建前上は許されないだろうが、退魔協会は普通の業界とは違うからねぇ。
それこそ、中途半端に教えたりしたら呪詛とか死霊術とかに手を出すエセ退魔師を量産しそうでヤバくない??
「退魔協会そのものは建前上は技術を教える事に制限はかけてないよ。
そう言う法律がないからね。
ただまあ、ただでさえ怪しい詐欺師紛いに見られることが多い業界だから、大抵の退魔師は弟子に協会で一人前になったと認定されるまでは誰かに技を教える事を禁止するらしい。
とは言え、凛の前世みたいな実行力のある制約系の魔術がある訳じゃないから、普通の契約書や誓約書に署名させても抑止力は本人の良心だけだからねぇ」
碧が肩を竦めた。
「ちなみに、呪詛とか関連で捕まった際の法律上の扱いの違いはどうなるの?」
一般人では無いけど専門家でもない。とは言え、素人に毛が生えた様な中途半端に教わった人間がある意味一番危険だろう。
「一応、退魔師から教わっている人間は専門家扱いだけど、半人前の弟子に教わった素人は一般人かな。
ただ、中途半端に教えた弟子の方はその一般人が起こした騒動の被害の賠償責任を負う事になるね。
これって弟子入りして一番最初に教わる事だし、その際に『この旨をしっかり教わり、理解しました』って誓約書を師匠と退魔協会に提出するから、絢小路さんもお金を借りたとしても迂闊には教えないんじゃない?
本物の退魔師に弟子入りするなら」
へぇぇ。
でもカンパで金を借りちゃった身で、そこら辺をちゃんと自制出来るのかね?
「そう言えば、退魔師になり損ねた人間とか、完全に単なる詐欺師が『退魔師になる方法を教える』って言って弟子入り料を集める様な詐欺をした場合はどうなるの?」
業界のイメージを悪くするから退魔協会が対処すべきじゃないかと思うが。
「警察に詐欺師ですよ〜ってチクる事はあるけど、実際に誰かに制裁を加える事は無い・・・って事になってるね」
「なってる?」
言い回しが気になるのだが。
「そう言う系の詐欺師って被害が大きかったりネットで話題になったりした場合、首謀者の自殺率が妙に高いらしいんだよねぇ」
おやま。
不味い事をしている人間は捕まって淘汰されてるのかね?