詐欺・・・だよね??
「あれ、お久しぶりです」
大学の学食から出てきたところでラノベ生活クラブの八幡先輩にばったり会った。
「あら長谷川さん、お久しぶり〜。
元気?」
最近ほぼ幽霊部員になってしまったにも関わらず、嫌味も言わずににこやかに笑いかけてくるんだから、良い人だよね〜。
「ええ。
碧とハウスシェアしているんですけど、数ヶ月前から一緒に子猫を飼い始めてその仔に夢中でついつい出不精になっちゃってるんですが、元気です。
最近はサークルの方はどうですか?」
先月の頭ぐらいに同期と会った時は内政チートに適したビジネスについての議論が白熱していると聞いたが。
「最近はねぇ・・・ちょっと変な雰囲気になってるのよねぇ。
暫く猫ちゃんに集中して顔を出さない方が無難かも?」
溜め息を吐きながら八幡先輩が答えた。
ちょっと想定外な返事だぞ。
「どうしたんですか?」
「先月になって、4年の絢小路さんが急に退魔師の修行を始めるって言い始めたの。
本人が才能を見出されたって妄想を抱くのは勝手にしてくれればいいんだけど、困った事に弟子入りするのに100万円程要るからってサークルでカンパを募ってるのよ。
出資してくれた人のはこっそり後で初歩的な霊力の使い方を教えるって言っているから、釣られちゃった人がそこそこ居て・・・。
騙されない方が良いって忠告する陣営と、来世での魔術を使うための予行練習だと言う陣営に別れちゃってもうサークル内が滅茶苦茶よ」
困ったように眉をハの字にした八幡先輩が教えてくれた。
「あ〜。
絢小路先輩って先祖は陰陽師だったって京都の旧家の人でしたっけ?」
中々風流な京都訛りで話す先輩だったが・・・特に魔力は多い風には見えなかった。
まあ、魔力の制御だけでも学んでいたら、碧と同じようにぱっと見では魔力持ちか分からないんだけど・・・。
「そう。
彼が2年の時の夏休みにサークルで遊びに行かせてもらって蔵を見せて貰ったりした事があるんで、先祖が陰陽師だったのは事実っぽいんだけど、現代に退魔師が居ると言う話は聞いてないからねぇ。
しかも100万円でしょ?
サークルの人間全員で割ってもそれなりの値段になるから殆どのメンバーは『遠慮します』って言ってるんだけど、サークルの趣旨的にも魔術に近い技術を学ぶ機会があるなら部費を使ってでも挑戦すべきだって主張するのが何人かいて、面倒な事になっているの」
八幡先輩が再び溜め息を吐いた。
何を馬鹿な事をと思っても、サークルの人間が詐欺に引っ掛からない様説得しようと頑張ってるのかな?
サークルの部費を使い込まれても困るだろうしね。
絢小路先輩の弟子入りそのものは本当の可能性もゼロでは無いが、皆に後でこっそり教えるっていうのは無いでしょう。
・・・考えてみたら、退魔師の技を教えるのって何か制限があるのかね?
無いんだったら片っ端から弟子を取って数年教える振りをして金を搾り取り、最後に『才能が足りないようだ』と突き放せばボロ儲けが出来そうだけど。
「弟子入りするのに本当に100万円も必要なんですか?
例えお金が必要だとしても、家の稼業なのでしたら親戚に教われるなり、親が援助してくれるなりしそうなものですが」
単なる詐欺の可能性の方が高いけどね。
つうか、サークルで退魔師の事をオープンに話しちゃって良いのかね?
一応日本では禁忌にされている訳ではないらしいけど、業界に関わる人間以外には基本的に黙っている感じなのに。
「古い伝統文化系の習得は高いからねぇ。
日舞とかでも一人前になるのに数百万から数千万円かかるって話だから、魔術に心が動いちゃった連中は退魔師の弟子入りに100万円ぐらい当然だって言ってて。
ちなみに絢小路さんが退魔師になるのは危険だからと家族が反対しているんですって。
だからカンパが必要なんだそうよ」
どうしようも無い、と言いたげに肩を竦めながら八幡先輩が応じる。
「う〜ん、どう考えても退魔師なり陰陽師なりって誰でもなれる職業じゃあ無いですよね?
才能があるかどうかを先に確認出来るんですか?」
退魔協会の人間に正式に弟子入りするなら、流石に全く才能が無い人間から弟子入りの礼金を毟り取るのは無いと思うが・・・絢小路先輩本人の弟子入りが本当だとしても、そして退魔師の技を教えるのが許されるとしても、サークルの皆が全員才能がある可能性はどう考えてもゼロだ。
「ある程度修行を積まないと芽が出るかどうかは分からないんですって」
処置なしだね〜。
正に詐欺の手法じゃない??