脅迫電話
「もしもし、碧?
凛なんだけどさ、誘拐されちゃって。
私を無事に返して貰いたかったら昨日の怪しげな違法の依頼、請けろだって」
家の固定電話の方へ掛ける。
留守電に記録が残る方が良いだろう。
『はぁぁ?!
何を言ってるの?!』
留守電にメッセージを吹き込んだら、碧が慌てた様に電話を取って応じた。
あれ?
シロちゃん経由で連絡しているのに随分と慌ててるね。
実は碧って中々の演技派??
「大学の帰りになんか尖った物を背中に当てられたと思ったら車に押し込められて、今は人気のない倉庫みたいな場所にいるの。
髭もじゃの人相がはっきりしない誘拐犯しか見て居ないから、多分碧が『自発的に気を変えて』昨日の『先生』とやらを治したら解放してくれるんじゃないかな?」
誘拐犯の方を見て言う
解放するって言われてないけど、そうだよね?
流石にここで殺すって事はないだろう。
『ちょっとその犯人!
ちゃんと自分の口で要求を言いなさい!』
碧の怒鳴り声がスピーカー通話をしている電話から流れる。
携帯を髭もじゃの方へ向けたら、溜息を吐きながら男が一歩近づいた。
「退魔協会の江藤氏に電話して気を変えたと伝えるんだ。
先生が今晩協会に来るから、癒したらお前のパートナーを解放する」
おやまあ、あっさり認めたよ。
隠す気も殆ど無いのね。
そんだけ偉い政治家なんだよ?
政治家だってライバル派閥とか野党とかいるんだから、前世の王族と違って違法行為を堂々と出来る人間なんてあまり居ないだろうと思っていたんだけど・・・そうでもないのかね?
『違法行為をするつもりは無いと断ったら?』
「数年前にも保釈中のおっさんがあっさりレバノンへ逃げたように、国から一人や二人の人間を裏ルートで連れ出すのなんて簡単なんだよ。
あんたの友人がどっかの東南アジアの娼館で働く羽目になって欲しくなかったら、言われた通りにするんだな。
ちゃんと報酬は払うと言っているんだ。
これ以上ごねても良い事はないぞ」
そっけなく男が脅す。
おお〜。
確かに碧が相手だったら『2度と見られない顔になるぞ』とかの脅し文句は使いにくい。
流石に殺すという台詞は使う気はない様だ。
とは言え。
碧が医者で治せない病気を癒せると信じているってことはこの男も退魔師の存在を知っているんだろう。
だとしたら退魔師のパートナーである私を意識があるまま連れてきて、危険だと思わないのかね?
精神を攻撃できる黒魔術師でなく、元素系の魔術師だってそれなりに自衛手段はある筈だけど。
この世界の退魔師って対人間ではあまり攻撃力が無いと見做されてるのかね??
かなり不思議なんだけど。
でも、下手に尋ねる事で警戒されて意識を刈り取られるのも嫌だ。
・・・と言うか、白龍さまの天罰はいつになるのかな?
そんな事を考えていたら、突然白龍さまが現れ・・・髭もじゃに雷を落とした。
黒焦げになっているわけじゃ無いし私に放電も無かったから、本当の雷じゃあないけどね。
『待たせたな。
縁を追って退魔協会の者と治療を求めていた『先生』とやらに罰を与えておいたから、これに懲りて今後は手を出して来ないじゃろう』
白龍さまが報告してくれた。
「ありがとうございます。
ちなみに、何をしたんです?」
白龍さまが現れた瞬間に取った中腰の姿勢のままでダラダラ脂汗を流しながらフリーズしている髭もじゃを見ながら尋ねる。
『取り敢えず今回は警告という事でギックリ腰で済ましておいた。
二週間もすれば治るじゃろう。
警告を無視したら次は一生首から下が動かぬ様にする。
我が愛し子の意にそぐわぬ行動を取らせる為に周囲の人間を害するのは、愛し子を害するのと同じこと。
本人に手を出さねば脅迫しても大丈夫だなどと思うなと、お主の仲間にも伝えておくのじゃな』
白龍さまが髭もじゃに伝える。
態々一般人にも見えるように具現化しているので、ちゃんと声も聞こえるらしい。
「・・・分かった」
痛みで掠れた声で髭もじゃが答えた。
ギックリ腰って痛くて暫く動けないって聞くけど、考えてみたら政治家がギックリ腰で動けなくなったなんて話は聞いた事がない。
政治家の偉い先生だと、ギックリ腰になる様な重い物は持ち上げないのかね。
今回はどうすんだろ?
まあ、どちらにせよ病気らしいからそのまま入院かな?
現代医療で治せない病気らしいし、さっさと引退して余生を今までの罪滅ぼしとして世の為になる事にでも費やせばいいんじゃないかと思うけどね。
こんな事を安易にする権力者なのだ。
きっと悪いカルマを溜めまくってきただろうに。