深読みしすぎ?
「ただいま〜」
ちょっと心臓に悪かった豊橋氏との再会の後、無事に家に帰ったら碧がいつも通り源之助と遊んでいた。
なんかすっかり源之助にべったりで引き篭もり化してない?
仕事には出てるけど。
あまり家に篭りすぎると筋肉が落ちてもしもの時に走れなくなるぞ〜。
まあ、碧が走って逃げる様な状況になったら白龍さまが対処するか。
普通の女性だったら筋肉が落ちると代謝量も減るから太るぞ〜って脅すんだが、碧は自分のカロリー消費を制御できる無敵な白魔術師さまだからなぁ。
羨ましい。
いざとなったら落ちた筋肉も戻せそう。
私も程よく筋肉をつけて貰えないかなぁ。
シックスパックとかって女性には難しいらしいけど、ちょっと憧れる。
それはさておき。
今日の出来事の報告だ。
「帰りに豊橋氏に突然声を掛けられて、ビビった〜」
「豊橋氏?」
「病院で助けた生霊爺さん」
忘れていたらしき碧が『ああ〜』という顔をした。
「へぇ。
態々探し出してきたんだ。
何の用?」
「お礼したいって爺さんから言われたから、ギフトカタログにしてくれって言っておいた。
一応碧も一緒に食事にもって誘われたから、オススメなレストランをリストアップして連絡してって言っておいたからそのうち郵便が来るかも」
まあ、その気になればメールアドレスも分かるんだろうが。
携帯番号が分かればメッセを送るのも可能だし。
急ぐなら、秘書からメッセでメールアドレスを聞かれるかな?
我々の世代だったら確実にメールやチャットアプリのIDを聞くが、爺さんの秘書の世代だとどうなんだろ?
「ふうん。
まあ、美味しい食事に罪は無いから、楽しませて貰おうか。
しっかしギフトカタログねぇ。
相手にとっては中々斬新なリクエストだったんじゃない?」
碧がにんまり笑いながら言った。
「なんか現金でお礼を貰うのも微妙だからねぇ。
ちなみに、『白龍さまの愛し子』の事は知っていたのに、碧が白魔術師だって事は知らなかったみたい。
治療じゃないんだったら、白龍さまの愛し子ってどんな時に呼び出されるの?」
勝手にお偉いさん達の間で情報共有されると言う事は、何らかの理由で権力者にとって役に立つんだろう。
セキュリティゲートでの結界復旧は国関連だとすると、企業のトップは何を必要とするんだ?
私としては治療の能力が何よりも大きいと思うのだが・・・それを知らなかったと言うのはかなり意外だ。
『白龍さまの愛し子』の情報を流した癖に、医療業界の既存権益に負けて便利な能力を言及しない退魔協会の行動論理が分からない。
碧なら現代医療で対応できる様な病気を全部治せるんだから、医療業界のゴリ押しによる白魔術師の締め出しを無視する方が金になりそうなのに。
それとも誰がどんな便利能力を持っているかの情報は退魔協会の幹部が握っておいて、外部へ特別な便宜を図る際に必ずマージンを取れる様にしているのかな?
氏神さまの愛し子の使い道に関する私の質問に、碧は肩を竦めながら答えた。
「そりゃあ、買い叩いたヤバい案件の退魔じゃない?
金さえ払えばどんな物件でも除霊出来るっていうのは大きいからね」
なるほど。
大手企業が関与するぐらい大きな案件が悪霊でストップしちゃった時なんかに泣きつく相手なのか。
「ちなみに、碧が現代医療で対応出来ないような回復術が出来るって分かった爺さんが何かに利用しようと寄ってきた可能性はどのくらいありそう?」
不治の病を治せるって云うのはある意味最強のジョーカーだ。
利用方法は色々とあるだろう。
それを利用しようと話を持ちかけるだけなら良いが、断られて強制する事を考えられたら困る。
「う〜ん、どうだろうね?
まあ、私の場合は白龍さまって言う保護者が居るからねぇ。
居なかったら中々やばかったかも。
そう考えると、医療業界が能力を使った治療を実質禁止させたのって結果的には回復の能力持ちを守った事になったのかもね」
碧が源之助に向かってオモチャを振りながら言った。
ふむ。
確かに、禁止されているから使わなければ、白魔術の適性も人に知らせる必要が無くなる。
退魔協会には知られている可能性は高いが、使っていなければ利用価値も分かりにくいし、練習していなければ能力も伸びない。
退魔協会が術者を守ってくれないこちらの世界なら、ある意味白魔術の能力は封じておく方が術者にとっては安全かもね。
助けられた命が救われなかった病人は哀れだが、どうせ碧クラスの白魔術師が癒せる人数なんて全体的な人口からみたらごく僅かだ。
「じゃあ、爺さんは本当に単にお礼を言いたくて寄ってきたのかなぁ?
突然横で車が止まった時は誘拐かと思ってぎょっとしたんだよね。
考えてみたら高級そうな黒塗りガラスのリムジンが私を誘拐する理由なんてないけど」
高級車なんて人の目を引くし、記憶にも残るし、通れる道も限定される。
そう考えると高級車で誘拐する意味はない。
ヤクザの可能性もあるかもだけど。
ヤクザって退魔協会とどんな関係にあるんだろ?
ヤクザも地上げとかしてるなら退魔師が時には必要となるだろうし、敵対したら呪いとかの呪詛返しにも協力して貰えなくて困りそうだけど。
「まあ、利用できそうと思って『お互いに金になる』って提案ぐらいはしてくるかもね。
ゴリ押しはしてこないだろうから、あまり心配しなくてもいいんじゃない?」
碧が気楽そうに答えた。
まあねぇ。
いざとなれば天罰デフェンスがあるもんね。
心配は要らないか。