ギフトカタログ
「お主はお見舞いに来た際に受付で名前と電話番号を書いたからの。
相棒の藤山嬢はしなかったようじゃが」
爺さんが教えてくれた。
なるほど。
誰かを雇って病院の訪問者記録を入手したのか。
意外と個人情報って金を払えばダダ漏れなんだねぇ。
まあ、私が爺さんの生霊に名乗らなければ探しようが無かっただろうから自業自得とも言えるけど。
流石に防犯カメラに映った映像から顔認識ソフトを使って名前や住所まで分かるようなデータベースは存在していないと期待したい。
・・・とは言え、車の免許はあるんだし、退魔協会にだって顔写真は提出しているんだから、国家権力とかだったら防犯カメラの映像から名前にたどり着けるのかね?
免許の顔写真ってそれほど写りが良くなくってイマイチ似ていないと思うから、まだ大丈夫だと思いたい。
それはさておき。
「生霊状態の事が夢だったと思わなかったんですか?」
退魔協会の事とかを知っている人ならそれなりに普通に超常の事も話せるが、知らない人だったら迂闊な事を言ったら一気に怪しい新興宗教まがいな世界になりかねない。
イマイチどう対応したら良いのか迷う。
別にこの爺さんが善人であるとも限らないんだし。
つうか、それなりに大きな企業を立ち上げてトップとして君臨し続けるには、清廉なだけでは無理だろう。
そう考えると、碧に治療されて感謝しているかも知れないが、ついでに金儲けの為に手を組もうと考えている可能性だってある。
「それなりに長く企業のトップをやっていると退魔協会とは縁が出来るからの。
病院に居たのは仕事で来ていたのでは無かったようじゃったから直接会いに来た。
諏訪の愛し子姫が癒しの術に優れていると言うのは知らんかったが」
おや。
爺さん、碧の事まで知っていたんだ。
凄いね。
それとも白龍さまって同業者以外にも有名なの??
歴史的には有名だとしても、現存する氏神さまとその愛し子の情報は秘匿情報だと思っていたけど。
宗教って日本じゃあかなりデリケートな話題だし。
「ちょっとプライベートで偶然ヤバげな人に会って、そのフォローアップに動いていたんです。
え〜と、どうしてもお礼をしたいと言うのでしたら、何か適当にギフトカタログでも頂けます?」
お礼のためと言われても、突然大学の帰りに声をかけてくる様な相手はイマイチ信用できない。
金なんぞ受け取って変な縁の記録を残すのは避けたい。
大学からの帰りのルートが分かるのだ、当然我々の住所も把握しているだろう。
だったら家の方に封書でお礼の文を送ってくるなり、せめて会って礼を言いたいと誘いの連絡でもとってくるべきだ。
突然道端で引き止めると言うのは、こちらの都合を考えていない上から目線な印象を受ける。
下手に報酬や礼の金を請求するよりも、向こうがいいと思う金額をカタログででも貰えばいい。
最近は10万円クラスのギフトカタログもあるらしいから、何だったらそう言うのを幾つか揃えればお礼として十分になるだろう。
流石に数千万単位の礼は要らないし。
「・・・ギフトカタログ!!!」
一瞬絶句してから、爺さんが爆笑した。
「良いの!!!
よし、幾つかオススメな内容のを見つけ出して送ろう!
あと、折角なので藤山嬢も一緒に食事へ誘わせてくれんかな?」
食事かぁ。
「幾つか候補になるレストランと日時をリストアップして送って頂けます?
藤山と相談して二人の好みに合ったところと都合の合う日を連絡しますので」
『礼を』と言われて好きでもない食事を食べるために時間を拘束されるのは御免だ。
碧はまだしも、私はまだ懐石料理とか中華は高級だろうとそれ程美味しいとは思わないんだよね。
まあ、それ程高級な料理を食べたことは無いから、『高級もどき』な懐石や中華が好みに合わないだけかも知れないが、どうせなら自分が好きな洋食系の方が良い。
金持ちな爺さんオススメの店を知っておいたら、いつか自分達で行けるかも知れないし。
・・・一見さんお断りで我々じゃあ予約も出来ない可能性も高いけど。
「ふむ。
確かに、こちらが礼をしたいと誘っているのに店を勝手に決めるのは間違っておるな。
是非試したらいいと勧めたい店を幾つか挙げるから、選んで返事をくれ。
楽しみにしておるぞ」
くつくつと楽しげに笑いながら爺さんが車に戻っていった。
ふう。
ちょっとビックリした。
でも意外とあっさり引いてくれて良かった。
超高級ギフトカタログでどんなのがあるか、楽しみだね。




