再会
「やはり夢ではなかったか」
大学の帰りに駅から歩いている途中で、突然横に止まった車の扉が開いたと思ったら先日病院で会った(?)生霊爺さんの本体が出てきた。
アメリカでは地域によってはすぅっと車が近づいてきて窓が開いた場合、ギャングの闘争などによる銃撃の可能性が高いらしい。
あっちでは誘拐とかも多そうだし、色々物騒だから車が横に止まったら良からぬ事が起きる可能性が高いので危険そうだが・・・銃が一般に普及して居ない日本でも、比較的細い道を歩いている時に急に横に車が来て止まるとギョッとする事が判明。
思わずフリーズして暫し爺さんの言葉に反応できなかったが、クイッと右の眉毛を上げて見せた爺さんの表情に、やっと思考が再起動し始めた。
「覚えていたんですか。
別に恩を売ろうと思っての行動ではないんで、特にお礼は要りませんよ?」
爺さんが退院したのと、爺さんの会社の買収話が立ち消えたと言う記事はオンラインニュースで読んだが、その後は特に名前を見ていなかった。
今回は『知らせがないのは良い知らせ』が当て嵌まったのか、どうやらすっかり元気になったようだ。
まあ、考えてみたら毒を盛られたっぽいって碧が治していたから、それこそどさくさ紛れに脳での認知症の発症前の異常とかも取り去ってこれ以上ないぐらい健康になっている可能性が高いかな?
身体中の血管に溜まったプラークを綺麗にしたり、すり減った関節を戻したりはしていないだろうが、脳だけは多分最高の状態に戻したんだろう。
いや、毒を除去するのに血管のドロドロ汚れも除去した可能性もあるか。
う〜ん。
ある意味、碧は治療費を請求すべきかも?
爺さんがお礼をしたいと言うのだったら無理に固辞せずに碧の治療分は受け取るべきかな?
・・・一応、退魔師として医療行為に対して金を受け取るのは違法とされるから、単なる知り合いへの資金の贈与って事になって贈与税をガッツリ取られそうだけど。
碧側は貰っても少額ずつ口座に入れていけばバレないかもだけど、爺さんの方の金の動きって国税局とかに把握されてるのかなぁ?
国税局に知られていない裏金だったら素知らぬふりをして贈与税も踏み倒せばいいと思うけど。
どうせ医療機関の既存権益を守るために禁じた行為からの収入なのだ。
馬鹿正直に税金を払って収入源を怪しまれる必要もないだろう。
「あのまま死んで、会社を解体して金儲けのために売り払うような穀潰しな親族と国に遺産を渡す羽目にならずに、自分が理想的と考える形で技術と産業を残せる様に出来るだけの時間を貰えたのじゃ。
何らかの礼をしたいと思っても不思議はあるまい?」
爺さんが笑いながら言った。
病院ではやたらと機嫌が悪そうだったけど、こうやって本体と会ってみると意外と普通な老人っぽいね。
気難しいと言うよりは、出来るジジイって感じで、まだまだやれるぜ!っていう気力に満ちている。
日本の高齢者って元気だよねぇ。
前世の富裕層だって白魔術師の回復術があったから日本の高齢者と同じぐらい(場合によっては日本以上に)健康だったけど、あっちの老人はもっと身を引いて引退生活をのんびり楽しんでいるタイプが多かった。
もっとも年金なんてモノがほぼ無い世界だったし、継続的な白魔術師の治療もバカ高かったから、優雅な長い老後生活を楽しめたのはほんの一握りの貴族階級と大富豪だけだったが。
それに比べて、新聞で見ると日本の政治家や大企業や経済団体のお偉いさんは日本のトップ層な筈なのに、かなりの高齢な方々がいつまでも現役として出張っている。
まあ、前世は階級社会だったから本当の権力者の動きは下々の人間には見えていないだけだったのかも知れないが。
とは言え、階級社会だからこそ後継者の育成とスムーズな責務の移行は一族にとって死活問題であり、ちゃんとしっかりやっていた。
日本は明治維新と第二次世界大戦で二度も社会の権力構造がぶつ切りになったせいで、そこら辺の移行をちゃんとやるノウハウが失われてしまったのかも知れない。
まあ、それはさておき。
「名前だけで意外と人って見つけられるんですね」
退魔協会経由で知り合った斑鳩颯人はまだしも、爺さんとは何の縁もなく、名前を言っただけだったのに。
ネットでエゴサーチをしても何も出てこないのに、どうやって名前だけで見つけたのだろうか??