毒?
「輝クンの緊急事態?!
直ぐに行かなきゃ!!」
入浴中の碧に声を掛けて青木氏からの電話の件を伝えたら、即座に出てきた。
流石、猫ラブな碧。
これが人間だったら余程親しい相手じゃ無い限り『救急車を呼んだら〜?』と言いそうなんだけどね。
まあ、自分の苦しみを訴えられる人間と違い、猫は口が聞けないし子猫だと体力も少ないから切実さが段違いか。
さっと着替え、髪の毛を適当に乾かした碧と青木氏のオフィスへ直行した。
車でウチまで連れてきて貰う方が楽なんだけど、体調が悪い時に動かさない方が良いかも、と碧が自分で行くと主張したのだ。
「そう言えば、碧が回復系の力が使える事を青木氏には言ってあったの?」
SOSの電話をしてきたんだから知っているんだろうとは思うけど。
「もしもの時にこっそり本人と家族を助ける代わりに、こっちで便宜を図って貰ったり秘密をキープしたりするのを手伝って貰う約束なの。
曾祖父さんの頃からの取り決めらしいよ」
碧の答えはちょっと想定外だった。
曾祖父さんって言ったら戦前か戦後直ぐぐらい?
「青木氏ってそんな昔から不動産屋をやってるの??」
「元は庄屋で大地主な家系だったらしいよ。
先祖の縁でウチの神社に代々奉加してくれてたんで、戦後に藤山家の若いのが首都圏で働く羽目になった際に頼ったんだって」
不動産屋なら確実に祓える伝手は重要だし、医療が発達する前だったら白魔術師は更に重要だっただろう。
今となったら人間よりも猫の治療に頼ってるみたいだが。
まあ、猫も家族だよね。
オフィスのPR要員という気もしないでも無いが、青木氏は十分溺愛しているし。
・・・青木氏って子供いるんかね?
居なかったらこの青木家と藤山家の協力体制も碧の代で終わっちゃいそうだが。
でもそうか、それなりにディープに藤山家と付き合っているならこないだの通り魔予備軍とか生霊爺さんに関する情報収集とかも頼めるかな?
不動産屋としてビジネスをしているから情報をキャッチするためのアンテナはそれなりに伸ばしていそうだし。
「良かった、来てくれたんですね!
普段だったらこの時間帯は元気に遊び回っているのに、蹲って動かないんです!」
我々を出迎えた青木氏が、我々を中へ案内しながら小声ながらも切実そうな様子で説明してくれた。
猫部屋にいた輝は確かにぐったりと動きが無かった。
「・・・なんか、毒を食べちゃったみたい?」
じっとしゃがんで様子を確認していた碧がやがて立ち上がり、眉を顰めながら言った。
「そんな!
子猫達と遊ぶ時も食べ物はあげない様にお願いしているのに・・・」
青木氏が驚いた様に呟く。
「ライブストリームの動画ってアーカイブもあるんですか?
誰かが意図的に変な物を持ってきた可能性がありますから、調べられるなら調べないとまた同じ事をやられるかも」
まあ、ライブストリームしてるのを知っているだろうから、確信犯ならカメラに映らない場所であげているだろうけど。
暫くこちらにクルミの分体を常駐させるべきかな?
最近色々とあったから隠密型分体を増やそうと頑張っているところなんだけど、今晩夜更かしして完成させるかなぁ。
「ライブストリームとして公開している部分には死角がありますが、猫部屋の全てをしっかり録画してます。まずは死角になる部分から重点的に確認しましょうか。
輝の方はどうしましょう?
毒なら、水でも大量に飲ませるべきなのでしょうか?」
青木氏が聞いてきた。
おお〜。
ちゃんと死角部分もカバーしてあるのか。
流石、碧パパが娘を任せるだけある。
出来るおっちゃんだね。
必ずしもそうは見えないけど。
「毒は・・・う〜ん、オシッコで出させるのが良いかな。
ちょっと水を飲ませた方が、脱水症状にならなくて良いかも」
白魔術師って排泄行為もコントロール出来るのか。
まあ、脂肪の燃焼とか、遺伝子とか、色々チートなレベルでコントロール出来るんだから体の通常機能の制御なんて簡単なんだろうけど。
子供の頃なんかは色々と悪戯をしそう。藤山家の子育ては中々大変そうだ。
私は取り敢えず、水を飲ませるのに協力しますかね。