緊急事態
手術後も特に問題なく元気な源之助と遊んでいたら、碧の携帯が鳴った。
碧がお風呂で居なかったのでチラリとスクリーンを見てみたら、青木氏の名前が表示されている。
珍しい。基本的にこちらからメールを出したら電話してくるものの、彼からの仕事の話とかだとメールが多いのだが。
取り敢えず、何か急ぐ理由があるのかもと思って電話にタップして受信状態にした。
『碧さん!!!
助けて下さい!!』
青木氏の声が部屋に響く。
「あ〜すいません、ちょっと碧は今席を外しているんですが、戻り次第コールバックするよう伝えますんでご用件を教えてもらえますか?」
スピーカーにして録音ボタンを押しつつお願いする。
呪い案件にでも関与しちゃって、呪われたのかね?
随分と慌てているようだが。
『輝がぐったりして動かなくなったんです!!』
あれ?
青木氏って碧が回復系の力を持っているって知っているんだっけ??
法律上使用に制限が色々とかかる回復術なんて、下手に使えると知られたら『無料なら規制に引っ掛からないだろう』と無料での治療を求められかねないので退魔師活動の関係者にもこちらからは知らせていないと聞いた気がする。
退魔協会には知られているし、あの連中のプライバシー保護意識はかなりいい加減なのでそれなりに漏れてはいるだろうけど。
「輝クンってどなたですか?
あと、何時位から体調が悪いんですか?」
一応聞いておく。
幾ら公言していないとは言え、回復系の術師だと知られているなら青木氏の家族が死に掛けているのに素知らぬふりはできないだろう。
だから一応、情報を聞いておく必要がある。
『輝ですよ!!
こないだ杉田さんの猫屋敷から保護した子猫のうちの、斑だった仔です!』
イライラとした青木氏の答えが返ってきた。
子猫か!!
人間より救えなくても大騒ぎにはならないが、問題はそれなりにありそう。
獣医の活動も『医療活動』の一部として規制されてそうだが、正確にはどうなんだっけ?
取り敢えず、『先日の猫屋敷の子猫、ぐったり』とメモする。
イマイチこう言う時に何を聞くべきなのか、分からないんだよねぇ。
「餌は食べていますか?」
食欲があるなら子猫は大抵の場合は何とかなるってどっかで読んだ気がする。
2キロか3キロぐらいの小さな子猫がどの程度の体調変化に耐えられるのか、知らないけど。
『今朝は普通に食べていたと思いますが、その後は食べていないかも?
残った餌は他の子猫達が食べちゃうんで、どの子がどれだけ食べているか1日分の録画を確認しないと分かりません』
青木氏の声が流れる。
う〜ん、ライブビデオでストリーミングしているのを見ていた人はいないのかね。
とは言え、ウェブサイトの方で視聴者相手に聞いてみたところで、毎日見ている様な人だと却って今日の光景か昨日の光景か分からなくなってきていい加減な事を言われる可能性もあるか。
「水を飲んでいるかとか、トイレに行ったかとかは?」
考えてみたら、これも分からないんじゃないかなぁ。
源之助だったら1匹しか居ないので出しておいた餌や水が減ったか、トイレの砂がどうなっているかとかを見れば一目瞭然なのだが、複数一緒に飼っているとそこら辺は不明だよねぇ。
『・・・分かりません』
一緒にわちゃわちゃ遊んでいる子猫ってめっちゃ可愛いけど、実は問題ありなんだね。
「取り敢えず、今はぐったりしているんですね。
吐いたりした様子は?」
猫ってよく吐く動物だって聞いたけど、源之助は特に吐いていないから子猫は吐かないのかな?
『親猫や他の子猫が食べちゃったんじゃない限り、吐いてはいないと思います』
「行方不明になったオモチャとかはありませんか?」
子猫の誤飲や誤食は危険らしいし。
つうか、何か誤食していたらどうするのかね?
腕の良い白魔術師だったらグッサリと包丁で切って胃なり腸なりに引っ掛かった物を取り出して治す事も可能だろうが、流石に普通の女子大生である碧にそれをやらせるのは無理があるだろう。
そう考えると獣医に連れて行く方が良い気もする。
『猫部屋にオモチャは放置して居ませんから、遊びに来たお客様が何かを落としてそれを輝が食べたんじゃ無い限り、変な物を飲み込んだりはして居ないはずです』
ちゃんとそこら辺は管理されて居た様だ。
「分かりました。
碧が戻り次第、コールバックさせます。
この番号でいいですね?」
取り敢えず。
お風呂でのんびり雑誌を読んでいるであろう碧に声をかけてみよう。