意外(?)と真摯
「では、手術が終わって麻酔から覚めたら連絡しますね〜!」
獣医のアシスタントっぽい女性が明るく碧に声を掛けて、源之助が入っているキャリーケースを持ち上げた。
「お願いします。
出来れば私が側で見守る代わりに、手術中もこのぬいぐるみを部屋の棚の上にでも置いて頂けますか?」
碧がキャリーケースの中に入った小さめのぬいぐるみを指差しながら頼み込んだ。
何かがあった時用にキャリーケースに入れられる位に小さく作ったシロちゃんの分体だ。
これをちゃんと手術室の棚にでも置いてくれたら碧が直接シロちゃんの目を通して手術の様子を見守れる。
「は〜い。
丁度いい置き場所があるか確認する必要がありますが、置けそうだったら置きますね」
にこやかにアシスタント(?)嬢が頷く。
まあ、ダメだった時の備えとして今日はクルミの隠密型分体も一緒に来ている。
斑鳩颯人の監視は一応続けているのだが、特に気になる動きはしていないので今日はこっちに呼び戻したのだ。
呼び戻すのは召喚で一発なんだけど、向こうに送りつけるのは物理的に私が行くかクルミが飛んで行くかしなくちゃならないんで、帰りにあっちの方へ寄る必要があるんだけどね。
まあ、源之助の様子は私も気になるからしょうがない。
どうせだったら手術の様子をリアルタイムで動画通信してくれれば良いのにと思わないでもないが、流石にプライバシーの問題とかがあるし、獣医の方も四六時中見張られていたら疲れてしまうから無理なのだろう。
医療過誤が起きちゃった場合に、証拠が問答無用で映像として残るのは獣医としても避けたいビジネスリスクだろうし。
取り敢えず、源之助を預けて私達は2階の喫茶店に行った。
13時を少し過ぎてランチのピークが終わっているお陰か、あっさり席へ案内された。
源之助はこれから血液検査とかレントゲンを撮って手術しても問題が無い事を確認した上で、14時から手術、15時過ぎに終わる予定と聞いている。
さっさと今のうちに昼食をゲットしておこう。
カフェなのだがビル内部の高級路線な店なせいか、ここはセルフではなくウェイターがオーダーを聞きにくる形だ。
「私はこの海老ドリア」
「私はこっちのBLTサンドで」
コーヒー類は、たっぷり時間をかけてランチを食べてから食後にデザートと一緒に頼む予定。
この時間帯だからお皿を下げるのもそうそう急がないだろうし、それでかなり時間を稼げると期待している。
クルミを通して見たところ、血液検査は特に問題は無かった。
レントゲンも、源之助がのんびりしているお陰でタオルに包まったまま撮られていた。
暴れたらネットみたいので拘束するってどっかで読んだ気がするけど、こう言う場合に噛まれたり引っ掻かれたりしたら獣医とかアシスタントには労災みたいのは出るのかね?
まあ、狂犬病菌でも持っている犬にやられない限り、大した事にはならないんだろうけど。
いや、大型犬とかだったら腕をガブっとやられても大怪我になりかねないのかな?
首筋とか噛まれたらヤバいのは想像がつくが、腕だってガブっと噛みついて首を振られたりしたら筋肉とか筋が裂けそうだ。
そう考えると、大型犬だったらこんな獣医一人に女性のアシスタントしか居ない所では接客(?)拒否されそうな気がするけど、どうなんだろ?
クルミはフラフラとクリニックの中を飛び回れるので、血液検査の結果とレントゲンの映像を獣医が見ながらアシスタント(多分)と話し合っているのも視えた。
省エネの為に音までは拾っていないのだが、意外と真面目にどちらもじっくり見てるね〜。
ちょっと感心。
数をこなす去勢手術なんて、おざなりにチェックしてちゃちゃっとやっちゃってるかと思っていたんだけど、それなりに真摯に命に関わる事として取り組んでいるらしい。
トリミングをやる様な獣医なんぞチャラチャラしていて信頼できないと思っていたけど、そうでもないのかな?
まあ、猫はまだしも犬は真夏になっても散歩で外に出るから、犬種によっては毛を刈らないと熱中症になるかもだからトリミングも必要なのかも。
もっとも、変にオシャレでトリミングが必要なプードルとかテリアみたいなのなんぞ選ばずに、普通に柴犬を飼えば良いじゃんと私は思うけど。
やっぱり犬はクルリとした尻尾とピンと立った耳がチャームポイントでしょう!!
まあ、それはさておき。
もうそろそろ手術かな?
14時より早く始まりそうだ。
食べている最中に手術の様子は・・・見なくて良いや。