こっそり襲撃:キャッチ!
『店を出たにゃ』
斑鳩颯人を見張っていたクルミから報告が来た。
「じゃあ、行こうか」
碧に声を掛けて家を出る。
色々と下調べした結果、車は軽自動車のミニバンにした。
そこそこ車高が高いので後部座席を精一杯下げるとかなり広いスペースが出来て直ぐに人を押し込める上に、あまり大きくないので細いめの路地でもかなり自由に出入り出来る。
斑鳩程の旧家ともなると、何処もかしこも車で送り迎えと言う可能性もあり心配していたのだが、都内は渋滞とかがウザいのか本人が意外と自分の足で出歩く人間だったのは幸いだった。
暫くクルミを使って日常生活を観察すると、それ程悪い奴では無かったんだよね〜。
とは言え、面倒な旧家の人間である事に変わりは無いし、妙な感じに私に執着しているのは変わらなかったのでこちらの予定も変更にはならなかったが。
少なくとも懲らしめて能力を封じるべきとか不能にした方が世のため人の為って程では無かったのは良かった。
あまりにも出会う女性が揃いも揃って強引で肉食女子過ぎて合わないせいで、素っ気なかった私にロックオンしたのはちょっと可哀想な気もするが・・・そこはもう少し自分の為に踏ん張ってもらおう。
どうも、旧家の跡取りの癖に斑鳩颯人は草食男子なようなんだよね。
流石に言動は家柄に見合ったように偉そうな感じものを身に付けているが、本性は草食男子なんで肉食派なグイグイくる女性が嫌らしい。
で、折角グイグイ来ない女性に出会ったのでアプローチしてみたのだが断られ、どうして良いか分からず取り敢えず興信所を雇ったっぽい。
このまま放置してもそれ以上の事はして来ない可能性もあるが、下手に私へのアプローチに関して周囲の人間に相談したりしたら、女嫌い(と思われている)跡取りが初めて示した興味に周りが変に手を回し兼ねないので、ここはちょっと威圧を潜在意識に刷り込んで私に対して苦手意識を持ってもらう必要がある。
「しっかしさぁ、あれって優しい穏やかなタイプとなんとか結婚しても、絶対に姑と嫁が喧嘩した際にオロオロするだけで味方してくれないタイプだよね」
車の中でターゲットが駅から出てくるのを待ちながら碧がコメントした。
ここ数日の斑鳩颯人観察には彼女も時折覗き込んで、旧家の生活というのをちょっと見てきたのだ。
「まあ、あのお母さんはちょっと強烈だよねぇ。
あのくらいじゃないと旧家を維持できないと前の当主が思ったのかも知れないけど、確かにあのお母さんを見て育ったら苦手な気が強い女性タイプとの結婚だけは避けたいと思うわぁ」
才能持ちの子供を目当てに当主が離婚して若いモデルに入れ替えた斑鳩家だが、前夫人も一族の人間らしく、ちょくちょく本邸に出てきて斑鳩颯人に声を掛けているのがクルミの目から見えたのだが・・・中々強烈な女性だった。
はっきり言って、ありゃあ『母』や『妻』よりも、『当主夫人』とか『退魔師』として活躍すべき人間じゃないかね。
自己発現の機会を奪われたせいで余計に苛烈なまでに家族に対して斑鳩家の繁栄に繋がる行動を求めているのだが・・・あれって斑鳩颯人が当主になったらどうなるんだろ?
もしかして、本家に帰ってきて采配を振るおうとするんじゃ無いかね??と思わせる程キツそうな女性だった。
どうも当主に離婚させて若いモデルと結婚する様に主張したのも彼女の方だったみたいだし。
「お。
来た!
じゃあよろしくね」
クルミが近付いて来ている方向を探索していたら、斑鳩颯人が感知に引っ掛かった。
路駐してあるミニバンの横を斑鳩颯人が通り掛かったところで後部座席の扉を開け、彼が何気なく振り返ったタイミングで碧も運転席の扉を開けてすっと出てきて肩に触れて力を使う。
くたっと力が抜けた体を私が車の中にひっぱり、碧が後ろから押す事であっさり通りかかった5秒後には車の中に斑鳩颯人を確保して後部座席に転がしていた。
「よっしゃ!」
さっさと精神干渉してしまおう。
暗くて人通りが少ない駐車スペースも探したのだが、そう言う暗くて人目が無い駐車場というのは悪事に利用されやすいのか、意外と監視カメラが付いている所が多かったり定期的に警備員が巡回に来ていた。
コインパーキングとかも監視カメラがある所が多い。
なので、窓用のプライバシーフィルムを買ってレンタカーの後部座席側の窓に貼って中が見えないようにした。
こうすれば適当に運転して貰っていても信号待ちしている時なんかに覗き込まれるリスクもほぼ無いので、安全に施術出来る。
さて。
ちゃっちゃとやっちゃいましょ〜。