フルコースディナー
「君は龍神様の愛し子と組んでいるって話は本当かい?」
倉橋氏と小笠原さんと和やかに話していたら、突然左隣から声を掛けられた。
なんか微妙に上から目線な感じ。会話に割り込んでも悪いと思っていないみたいだし。
このテーブルの中で自分のポジションがトップだと思っているのかな?
はっきりとした爵位や王位継承権とかの順位があるならまだしも、ふわっとした歴史に基づいた家柄の上下なんて部外者には関係ないんだけどねぇ。
「藤山 碧さんの事でしたら、一緒に事務所を立ち上げて働いていますね」
ちょっとイラっとしたが、相手は多分どっかの旧家の後継ぎなのだろうから、あまり角を立てぬ様に答える。
「へぇぇ。
どんな感じなんだい、彼女は?
私の従兄弟と一度一緒に仕事をしたらしいが、気難しいと言っていたんだよ。
有望な若い術師だと聞くから、一度会ってみたいと思っていたんだが」
ワインをお上品な感じに手に取りながら聞かれた。
日本人って若い頃からワインを飲まないせいか、大学でも飲み会とかでワイングラスを手に取ると妙にキザっぽい感じになる男が多いのだが、流石に良い家のおぼっちゃまらしき斑鳩氏は慣れた感じだった。
碧とあまり上手くいかなかった(と思われる)従兄弟がいる段階で頭の固い男尊女卑な家系な可能性が高いんだろうなぁと思うと、無駄なんだから声を掛けてこなきゃ良いのにと感じるが。
あと、自分だって年が殆ど違わなそうなのに『有望な若い術師』って・・・なんか話している内容が中年くさいぞ。
分家の跡取りとかに嫁として迎えてやるぞと上から目線な事を言われる事が多いと以前碧が愚痴っていたが、ご立派らしぃ斑鳩家の長男でも白龍さまの愛し子なら嫁として許容範囲内なのかね?
まあ、碧としたら御免被ると言うところだろうが。
「気が合って仲良くしている友人なので、私としてはその気難しいと感じた従兄弟の方とは彼女の価値観が合わなかったのだろうとしか言えませんね」
あんたとも合わないんじゃない?
「颯人さん、そんな辺鄙な神社の跡取りでもない娘の事なんてどうでも良いじゃないですか。
それよりも、先程の除霊の話をもっと詳しく教えて下さいませ」
流石にディナーテーブルに座っていたら隣の席の男性に枝垂れ掛かるのは難しい。
代わりにさりげなく斑鳩氏の腕に手を乗せながら向こう側の綾川 怜子とやらが割り込んできた。
いや、跡取り娘じゃ無いからこそ、この斑鳩氏は嫁候補として考慮しているんじゃないの??
どちらにせよ、白龍さまが代々目を掛けている藤山家を『辺鄙な神社』なんて言っていいのかね?
なんか斑鳩氏の目が冷たくなったぞ。
「藤山家と言えば数少ない現代でも顕現して下さる氏神様を祀る古くから続く神社だぞ。
氏神様は我々人間の言う事なぞ気にもしていないだろうが、『辺鄙な』なんて失礼な言い方はどうかと思うね」
腕を綾川さんの手から抜き取りながら冷たく答えている。
うん、やっぱり白龍さまってこの賀茂家の分家の次女が媚を売る程度に良い家らしき斑鳩家でも礼をもって対応するぐらいの大物なんだね。
とは言え。
綾川さんや。
八つ当たりで私を睨まないでくれ。
私はこの斑鳩氏が興味を持った対象ですら無いんだ。
しっかし。
男には都合の良い結婚相手として声を掛けられ、その男を狙う女からはライバルとして睨まれ・・・碧が退魔協会の合コンもどきを嫌う訳だわ。
取り敢えず、折角綾川さんが斑鳩氏の注意を引いてくれたので、退魔協会で売っている符はどこのが一番良いかについての話に戻ろうと倉橋氏と小笠原さんの方へ向き直る。
「あの藤山さんと組んでるのか」
倉橋氏が呟いた。
どうやら割り込んできた斑鳩氏の声が聞こえていたらしい。
「ええ。
私はぽっと出の一般人なんですが、組んでるパートナーはどうも有名だったみたいですね」
さて。
こっちの二人も態度が変わるのだろうか?
「氏神さまに愛されるなんて、面白い人なんでしょうね。
そのうち機会があったらお茶でもご一緒したいわ。
良かったら声をかけて下さいな。
それはさておき。
私としては収納符は倉戸のが一番だと思いますのよ」
碧の事にさほど興味が無いのか、小笠原さんがあっさり流して元の話題に戻った。
良いねぇ。
ちょっとびっくりする様なお嬢様っぽい言葉遣いだが、友達付き合いしても良いかも?
「いや、白山の収納符は滅多に売りに出ないが入手できるならあれが一番だよ。
大きさがちょうど使い勝手がいい上に値段も手頃だし」
倉橋氏も碧の話題に固執する事なく、そのまま符の話題に戻った。
良かった。
まだスープを飲み終わったばかりなのだ。
フルコースディナーが終わるまで碧と白龍さまの話題を続けられるかとちょっと心配したよ。
碧はどうしてるかなぁ・・・。