奥さん
「凄いですね、これ!!!!
今まで平日は肩がゴリゴリで頭も痛いし、碌に眠れないしで週末にその分寝ていたら平日に変な時差ボケになるしで本当に辛かったんですが、お守りを貰ってから頭痛も減ったし何よりも眠れるようになりました!!!」
青木氏に治験用の各種お守りと、ついでにどうぞと言う事で幾つかオマケを渡して二週間経ち、子猫達を見るついでにちょっとフィードバックを貰おうとオフィスに来たら・・・何やら物凄くテンションの高い女性に手をぶんぶん握って振り回された。
誰、これ??
そっと影から碧と見せて貰った不動産業界の被験者は3人とも中年から老年の男性だった筈が。
何かマジで危険な基礎疾患とかが不眠症や肩凝りの原因だったら困ると思って碧が確認したんだよね。
まあ、危険な基礎疾患があった場合にもお守りがどう言う影響を及ぼすか知りたかったので、碧が後でこっそり治す代わりに即座に命に関わる状態じゃない限り治験が終わるまでは何も言わない予定だったけど。
「綾子。
お二人が驚いているぞ」
いつの間にか現れていた青木氏が苦笑しながら女性に声を掛ける。
おやぁ?
なんか親しげだね。
「藤山さん、長谷川さん、妻の綾子です。
今回分けて頂いたお守りを試しにと渡したら、とても効きが良かったので是非ともお礼を言いたいと言いまして。
綾子、藤山 碧さんと長谷川 凛さんだ。今回のお守りは藤山さんの実家の神社の物だと聞いている」
青木氏が女性を紹介してくれた。
奥さんですか。
なんか猫ラブをシェアしていなくて微妙に家庭内別居に近い状況なのかと思っていたけど、そうでも無いの?
まあ、犬派だとは聞いていたから猫ライブストリーミングの睡眠効果を楽しめていない人の一人なんだろうが。
この口振りだと、退魔師の存在は知らない人かな?
「こんにちは。
青木さんは父の知り合いだった縁で最初のマンションの紹介だけでなく、友人とシェアハウスする事にした際にも良い部屋を紹介もしていただき、助かっています」
碧がそつなく綾子さんの手を握りながら挨拶した。
「こんにちは。
私も時々眠れなくてタブレットでネットサーフィンとかを始めて夜更かししちゃうんですが、綾子さんも寝つきが悪いんですか?」
私も挨拶をし、ついでにフィードバックを貰おうと少し水を向ける。
「なんかいつも、ベッドに入ってもプロジェクトの事とか部下の人事査定の事とか、色々と考えちゃって目が冴えちゃうんですが・・・このお守りがあるとふわ〜っと気分が落ち着く気がするんです。
神様ってあまり信じて無かったんですけど、お守りが効くならもしかしたら居るのかもと思いました!
あ、こんな言い方って神社の方に失礼でしたね、すいません」
綾子さんが慌てて碧に謝った。
確かに実家が神社の人間に『神を信じない』って言うってことは、考えてみたら実家が人の弱みにつけ込む詐欺師同等と実質言っているようなもんだもんね。
まあ、そこまでキツイことは考えてなかっただろうけど。
しっかし。
プロジェクトとか人事査定ねぇ。
地域密着型の中堅不動産屋とは言え、社長である青木氏の奥さんがスーパーのパートとかでは無いだろうとは思っていたが、どうやらそこそこバリバリな管理職っぽい。
ストレスで肩凝りと不眠に悩まされてるのかな?
不動産屋なら借主や貸主と会う為に色々出歩くせいで体をある程度動かすが、普通の会社の管理職となったら一日中オフィスでコンピューターと向き合ったり人とミーティングしていたりだけだろう。ストレスで体が凝り固まっちゃうせいで体が不調になる事もありそうだし。
私らもそれなりに体を動かさないとね〜。
碧の回復術に頼り切りになるのは良くないだろう。
特に私は碧とのシェアハウスをやめたらヤバそうだ。
今から体を動かす習慣を身につけないと。
「神様は存在すると私は信じていますが、宗教がそのお言葉を正しく理解して伝えているかは不明ですからね。
実家では神様の恵みに感謝の念を捧げるのが我々の主たる責務だと思って励んでおります」
ちょっとこのままでは下手をしたら宗教にのめり込みすぎそうで怖いなと思っていた綾子さんに、碧が答えた。
そう。
神様はいる(少なくなくとも氏神さまは碧の横に浮いている)けど、その言葉を人間が正しく伝えているかは不明なのだ。
宗教組織は神と同一な存在では無い事をよく理解しておいてもらいたいね。
まあ、お守りのお得意様になってくれるのは大歓迎だけど。