次期女将?
「世の中、思ったよりも呪われている人が多いのか、私らがやたらとフラグに縁のある人間なのか。
どっちだとしても微妙だけど、どうしようもないね。
それはさておき、今回はどうしようか?」
露天風呂に浸かりながらグイグイと脹脛を親指で押して揉みほぐしつつ、碧に相談する。
「う〜ん……。
凛はどんな呪詛か分かった?」
碧がぐでっと岩の上に頭を乗せて温泉に身を沈めながら聞いてきた。
「ちらっとしか見てないから確実じゃないけど、なんかこう、不妊になる様な呪詛だったかも?」
前世では貴族社会でよく見たが、今世では殆ど見ていないので、久しぶりに見た呪詛のタイプだった。
だから断言する前に、もう一度しっかりあの女性を観察したいところかな。
「うわぁ。
見たことが無い呪詛だと思ったら、そっち?!」
碧が目を丸くして聞き返してきた。
「多分?
日本じゃあ今まで見た事がないから、できれば断言する前に一度あの女性に触れて確認したいところかな」
不妊の呪詛返しとなったら、同じく不妊か、男性なら種無しになるのかな?
転嫁された相手がもう子供を授かる様な年齢じゃなければダメージが実質ゼロと言えるかもだが、転嫁先が若かったらかなり不幸な結果になりかねない。
と言うか、そんな呪詛を掛けられるって……。変な横恋慕とか後継者争いっぽい話の可能性はあるが、下手をしたら夫が浮気していて愛人から八つ当たりなり、さっさと離婚する様に呪詛を掛けた可能性もありそう。
もしも彼女が単なるフロントスタッフじゃ無くて女将だとしたら、浮気をされていても離婚できない理由みたいなのも出てくるかもだし、マジでデリケートな話になりかねないなぁ。
今時の温泉宿の経営ってどこも中々大変らしいし、そこにストレスを足すような話をするのは気が引けるが、子供が欲しいのに不妊の呪詛で子宝に恵まれないとなったらそれはそれで不幸過ぎる。
「う〜ん。
もしも彼女が女将さんか次期女将さんなんだったら、退魔師とか呪詛の事を知っていると思うのよ。
その場合は、『怪しい影がお腹の下の方にある様に視えるから、退魔協会へ連絡してはどうか』って言えば良いと思うの」
ザバっと顔に温泉の湯をかけた碧が言った。
「問題は単なるバイトとか、業界に特につながりが無い従業員だったら変な事を言う詐欺師だと思われかねない事だよねぇ。
まあ、取り敢えず先にランチに行こうか」
体がいい感じに温まって汗が出てきたから、一旦出てご飯を食べよう。
「だね」
ということで露天風呂から出てささっと温いシャワーで体を流してから脱衣所に行く。
幸い人影がなかったので、亜空間収納から自分と碧の着替えを取り出し、今まで来ていた服をビニール袋に入れて亜空間収納の方へ突っ込んだ。
小さめなリュックサックに着替えが入っていたとは意外に思われるかもだけど、圧縮袋で空気を抜いてぺったんこにしていたとでも思ってくれるだろう。
皺がないのを不思議に思われそうだが。
◆◆◆◆
「歴史があって良い温泉宿ですよねぇ、ここ。
私の両親も関東地方に住んでいた時代に何度もここに来たらしいんですよ。
受付の方が次代の女将さんですか?」
碧が配膳してくれたおばさんに愛想よく話しかける。
お弁当って書いてあったけど、お重箱2段分に蒸し器っぽいせいろ(って云うんだよね、これ?)に、小鉢が多数とお吸い物にデザートまであり、どうみてもお弁当って語弊がある。
まあ、良い方向にずれているんで、文句は言わないけど。
その分お値段も温泉宿価格ではあるけどね。
温泉代だと思えば多少の贅沢はしょうがないよね。
卒業記念なんだし。
「そうなんですよ〜。
色々と忙しいのでいつでもではないのですが、新しいお客様にここを知って貰うためにも日帰りのお客様とやり取りが出来る受付を担当されることが多いんです」
ニコニコとおばさんが教えてくれた。
中々、仲のいい職場らしい?
まあ、客に向かって職場で上司の悪口を言うバカはそうそう居ないだろうけど。
「そうなんですかぁ。
あとで食後にもう一度タオルを貰いに行くので、もう少しお話をしてみますね」
碧がにこやかに応じた。
やはり次期女将さんだったらしい。
まあ、お陰で話がちょっとは単純になったかも?




