転嫁付き呪詛
最初の登り坂が辛かったが、頂上近くの桜が綺麗な広場的な所に出てからのんびり降りてくるのは比較的順調だった。お陰でハイキング時間の想定としてネットに書いてあった『2時間10分〜40分』という幅のなかで、ちょうど真ん中な2時間20分で予約していた温泉宿に到着。
登り始めはマジで辛かったが、終わってみたら悪くないハイキングコースだった。
山歩きでは下り坂の方が実は大変だと言うから、最初にキツイ登り坂なあのルートは正解だったのかも。
「まだ1時よりちょっと前だし、先にさっと温泉に入って汗を流してから食べない?
食事を10分ぐらい遅らして貰うのって可能だと思う」
片側に池があり、その周辺が大きな木で囲まれた静謐とした雰囲気の宿に入りながら碧がこっちを見て提案してきた。
「良いね〜。
やっぱ汗だくだし埃だらけになったと思うし、ズボンもちょっと汚れているから食事の前に着替えたい」
ハイキングコースは幸いにも恐れていたほど泥だらけでは無かったが、それでも濡れた葉っぱとかを踏むと水滴が飛んだし、濡れた土は部分的には泥となって跳ねていたらしく、途中で休憩時に確認したら膝の下部分にポツポツと泥はねが付いていた。
碧のズボンは殆ど汚れてないのに。
マジで何がいけないのか、知りたいよ。
今だったら携帯とかで歩いている様子を撮影して貰って、足の動きと泥はね具合を比較して何がいけないのか、AIとかに分析して貰えないかな?
グー◯ルの検索場面から使えるAIモードは動画をアップロードする機能は無いっぽいから、無料バージョンではまだ無理なのかもだけど。
そのうち出来るようになると期待しておこう。
まあ、それはさておき。
中に入って温泉宿のフロントにいる女性に碧が声をかけた。
「1時から予約の藤山です」
受付の女性がにっこり笑って頷いた。
「藤山碧さまとお連れ様一人ですね?
お待ちしておりました。
直ぐに食事も準備出来ますが、食堂にご案内いたしましょうか?」
何も調べずに直ぐに碧の名前を言ってきた。
予約客は時間が近付いたら確認しておくのかな?
中々出来る女将(単なる従業員かもだけど)なようだ。
「あ、食事の時間を10分ほど遅らせて、先にさっと温泉に入って汗を流してきても良いですか?
秦野の方からハイキングしてきたのでちょっと汗ばんでいるんです」
碧が女性に笑いかけながら尋ねる。
「勿論です。
こちらがタオルになります。
食後にもう一度入る場合はまた新しくお出ししますので、使ったタオルは脱衣所の籠に入れておいてください」
2セットほどタオルを渡しながら言われた。
へぇぇ。
タオルを追加料金無しでもう一部貸し出してくれるんだ。
まあ、濡れたタオルを干したいからと食事処の座席に掛けられたりしたら、イメージがちょっと損なわれるよね。
そう考えると、個別の部屋を予約していない客の場合、『食後にしか浴場に入れません』とでも明記していない限り、そうならざるを得ないのかな?
まあ、1回使うだけで洗濯するなら、それほど洗濯石鹸を使わないでも良いだろうし。自分のところの洗濯機を使うなら追加料金はそれほど掛からないよね?
と言うか。
考えてみたら、温泉宿ってタオルやシーツとかって自分たちで洗っているのかな?
干すのも大変だと思うんだけど。
いや、外に干さずに乾燥機かな?
電気代が凄いことになりそうだが。
シーツのアイロン掛けとかも考えると、外注かも?
洗濯係を雇っているかもだけど。
そんな事を考えながら、受付の女性に教わった方向へ進み、『女』と大きく書いてある暖簾の中へ入っていく。
ちゃちゃっと服を脱ぎ、籠に適当につっこむ。
どうせ帰ったら洗濯だ。
丁寧に畳む必要はないだろう。
着替えは温泉から出た時に亜空間収納から出そう。万が一入浴中に無くなったら困る。
髪の毛は洗うつもりはないので、髪ゴムで適当に頭の上に団子にして、準備完了。洗い場へ行き、お湯をだすレバーを押してシャワーで体を流し、急いでボディソープを泡立てて洗う。
タイミングが良いのか、私と碧以外は殆ど誰もいない。
まだランチの人たちは食べているところなんだろうね。
1時に来て先に一風呂と考える人は少ないらしい。
ちょうど良かった。
体をささっと洗い流し、ガランとしている外の露天風呂の方へ入っていく。
「ねぇ。
さっきの受付の人、呪われてたよね?」
一緒に出てきた碧が、そっと低い声で聞いてきた。
「だね〜。
しかも転嫁付きだった」
とばっちりを喰らうであろう転嫁先の人のことを考えると、神社で厄祓いしたらどうかと勧めるのも微妙だ。
中々悩ましい。




