一長一短ですかぁ
「ただいま〜」
駅の帰りで見かけた花屋で買ったブーケを手に、私らの部屋の玄関を開けて中に入って声を掛ける。
鍵が解錠して玄関が開いた音で分かったとは思うけど、一応怪しい泥棒じゃなくて私だとお知らせした方が良いよね。
それに、『ただいま』と『お帰り』は人の触れ合いを感じさせてくれる重要な言葉だし。
「お帰り〜。
どうだった?」
碧がリビングから声を上げて応じた。
「これを貰ってきた」
丁寧にプチプチシートで包んで貰った上でビニール袋に入れられた花瓶を取り出して、碧に見せる。
「あら、中々良い感じじゃない」
碧が感心したようにちょっと目を丸くした。
「他の立派でちょっと派手な花瓶とかの合間に埋もれてたのを、何とか見つけ出して選んできた。
高度成長期に大手デベロッパーが丘を切り拓いて作った住宅地の家を、バブル期直後ぐらいに建て直した家らしくて。なんかスエーデンかどこかの工法を使った『頑丈で百年保つ!』っていうのが売りで、廊下とか部屋のサイズもちょっと欧米的に大きな家な上に収納も主婦の拘りで作りまくった家らしくてね〜。
お陰で怜子さんのお祖母さんの両親から貰った物やらお祖母さん夫婦が買った物やらが捨てずに山ほど取ってあったみたいで……凄い量だった」
結局、お茶を飲んでいる間に家の来歴や祖父母夫婦の海外赴任履歴、今の家を売る事になった経緯や持っていけない物の処分の苦労話やら、色々と聞かされまくったのだ。
「なんかさぁ。
『自分が老人だなんて思っていなかったのに、夫が死んだ途端に家から追い出される羽目になったのよ!』なんて言っていたけど、歩き方からして老人っぽいすり足歩きなんだよねぇ。
あれじゃあ家族が心配して戸建てから出て行くよう言い募るのも分かるわ〜。
ああ言うのって、治癒でなんとか出来るもんなの?」
『家から追い出される』なんて聞いてびっくりしたけど、自分の家なんだから実際には文字通り追い出されるのではなく、高齢者施設に入るように口煩く言われて折れたのが不満なんだろうね。
帰りに怜子さんが言っていたが、どうも最近お祖母さんの言うことがびっくりする程キツくなってきたらしい。
それも加齢の症状の一つなんじゃないかね?
筋肉も、脳の機能も、病気ではなく老化現象だったらどうしようもないのかな?
まあ、どうにか出来たとしても一々やっていたらきりがないから手を出すべきじゃないだろうけど。
「まあ、住み慣れた家で死ぬのが理想だって言う人は多いからねぇ。
とは言え、家族が同居してるんじゃない限り、実質それは不可能だと思うけど。
足腰が弱るのとか思考能力が落ちるのも、怪我に近い様な関節の炎症や病気とかが原因だったら治せるんだけど。加齢で血の巡りが悪くなって徐々に筋肉や脳細胞が死んじゃったり細く小さくなっていく場合は……長期的には流石にどうしようもないんだよね」
碧がため息を吐きながら言った。
碧の親戚や知り合いでもそう言うので揉めたケースがあるのかな?
碧の場合、加齢で動きが悪くなった体を治せるかもって可能性があるから余計に複雑な心境になりそう。
「辛いもんだよね〜。加齢はそれこそしっかり栄養があるものを食べて運動を毎日ガンガンするのが唯一の解決策なのかもだけど、ガンガン食べるのだって胃もたれとかで難しそう。
怜子さんのお祖母さんも、自分でここ数年は食が細くなったって言っていたし。そもそも子供達の夫婦が同居するのなんて絶対に嫌だって言ってるんだから、どうしようもないよね。
しかも、なんか坂の途中の家だから擁壁とかが既存不適格?だとかで、現時点で家を建て直そうとしたら擁壁までやり直さなきゃいけなくて、建築費がプラス2千万ぐらい追加で必要になるらしい。
今は家がちゃんとメンテされてるし素敵だからあのままで売れそうだけど、ボケちゃってちゃんとメンテせず、施設に入った後も認知症だからってことで売却契約を締結できなくて十年とか空き家のまま放置ってことになったら悲劇になりそうな場所だった。
自分で物の処分を決められる今のうちに、売っぱらって高齢者用マンションに入るのが正解でしょう」
たとえ他の団塊ジュニア世代の大移動と重なったせいで、バブル期の持ち物が買い取って貰えないとしても。
碧が顔を顰めた。
「古い擁壁はね〜。
ブロック塀の更に上を行く、悩みのタネだよね。
あれはマジで困る。
古いのが危険だって言うのも一理あるけど、勝手に法律を変えた国も恨めしいって住民は多いよ〜」
「碧の家も困ったことがあるの?」
諏訪神社や碧の実家に擁壁なんてあったっけ?
「ウチは裏にある……って言っても別に近くに家はないし建てるつもりもないから構わないんだけど。建て直しとかで困ったって氏子さんからの相談は母親がちょくちょく受けてたね。
とは言っても、神社の人間にどうにか出来る話じゃないから、愚痴を聞くだけって感じだったけど」
そう言えば、今度入る予定の美帆さんのところの旧旅館部分とか、新しく建てるアパート部分なんかはちょっと坂になっている土地だ。特に目にはついてなかったけど、どこかに擁壁とかあるんだろうなぁ。
まあ、あそこは多分企業としてちゃんと工事をしたんだろうけど。
「色々と悩ましいもんだね〜。
平地にあると今の時代だとゲリラ豪雨とかで水没リスクがありそうだから、坂の途中の家も悪くないと思っていたんだけど。結局どちらもでも問題ありなんだね」
マンションも敷地内の擁壁が崩れたら管理組合の責任問題になるらしいし。
家は買わずに、事故物件を安く借りるのが一番かな?
微妙な話になりましたが、これでこの章は終わりです。
もう一章ぐらい書いてこの話は一旦完結にして、また新しく続編を始めようと思っています。
どうも話数が多くなり過ぎると重くなるらしく、ページを開いたり更新したりするのが妙に遅くて;




