売れない??
「こちらは〇〇焼きなのよ。
母が残してくれたの。
こっちはドイツの有名な白磁のメーカーの人形なの。人気がある筈なのに500円だなんて、馬鹿にした値段を付けてきたのよ、信じられる?!
そしてこっちは……」
ネクタイに関する文句は終わり、怜子さんのお祖母さんは食卓に上に展開してある買取(もしくは譲り受け)希望な食器とか瀬戸物とかを説明し始めた。
取り敢えず、無難そうで場所を取らなそうな花瓶を一つ引き受けるから、説明は要らないんだよなぁ。
ブランドとか有名な磁器や陶器の産地なんて良く知らないし現時点では興味も無い。なので説明されても耳を右から左へ通り抜けていくだけで、時間の無駄だし。
それよりも、なんとかお祖母さんにさり気なく触れて才能を封じてしまいたいんだけど。
いくら将来的には義理の家族になるとは言え、ここで突然肩を揉みます!と言い出したらちょっと変だよねぇ。
肩叩きは接触時間が短いからちょっと向かないし。
この際、ちょっと変わっていると思われても手相を観ます!とでも言って手を握らせて貰うかな?
生命線がくっきり長いのでまだまだ長生きしますね〜とか適当なことを言えばいいだろう。
それなりに家族にも恵まれているんだから、家族運も良いですねと言ったって嘘じゃないだろうし。
亡くなった夫の事もそれなりに大切そうに話しているから、隠れDVをするようなモラハラ男でもなかったんだろうし。
と言う事で、好感を稼ぐために色々と興味がありそうな相槌を打ちながらお祖母さんの話に付き合い、やっと息が切れた瞬間にさっと近づいて椅子を勧めて座らせ、その前に跪いて手を取る。
「実は私、最近知り合いに手相の見方を習っているんです。
まだまだ修行が必要なんですが、ある意味長生きなさって家族運もしっかりしてらっしゃる方の手相を見せて頂いたら教わってきた事を検証できると思うので、少し手を見せて頂いても良いですか?」
既に手を握っているので断りにくいように、さっさと掌を上にして線をなぞり始める。
「ああ、これが生命線ですね〜。
確かにしっかり長くここまで伸びてますものね、長寿の証明なのでしょう。
こちらは家族運を示す事が多いらしいんですよ〜」
適当に口から出まかせを言いながら、お祖母さんの魂に触れて、才能の兆しを見つけてそれを魔力で封じる。
「あら?」
一瞬、何かを感じたのかお祖母さんが周囲を見回したが、気のせいだと思い直したのかそのまま自分の掌を一緒になって覗き込む。
よし。
大体これで良いかな?
焼き尽くす程の徹底した封印じゃないけど、ほぼ覚醒していない能力だから、これで使えなくなった筈。
「いやぁ、ありがとうございました。
個人差があるし色々と解釈の仕方もあるからまだまだ勉強が必要なんですが、参考になりました!」
お礼を言いながらお祖母さんの手を離す。
ついでに目についた比較的すっきりしたデザインで握り拳2つ分のサイズの花瓶を手に取った。
「あ!
この花瓶が凄く可愛くて良いと思うので、これを頂いても良いですか?」
これで帰れるかな?
「勿論ですよ!
他にもどうかしら?
こっちなんかはもっと大きな花束を入れるのに使えるわよ?」
ででんっと大きな、両手で抱えなければ持ち上げられなさそうな30センチは超える立派な花瓶を指される。
「いやぁ、そんな大きなのが置いてバランスが取れるほど広い部屋には住んでいないですし、花束を貰える可能性も限りなく低いんで。
こっちの小さいのだったらスーパーで売ってる500円ぐらいの花束を時折自分で買って飾るのに良いと思うんで、これだけ下さい」
考えてみたら、最近はあまりスーパーで花が目に入らなくなった気がするが。
……今でも売ってるよね??
単に花の売り場が目に入りやすい良い場所から移ったか、私が精神的に余裕がなくなって見てないだけで、インフレでスーパーに納品していた花屋が潰れたとは思いたくない。
まあ、駅の周辺には意外と花屋が何軒もあるので、スーパーがダメでも花屋で500円ぐらいのブーケっぽいのだって買えるだろう。
多分。
「そうお?
じゃあせめて、ここまで来たのだからお茶でも飲んで行って頂戴。
もう直ぐ手放しちゃうティーセットを使ってあげたいし」
ちょっと哀しげにそう言われては流石に断れず、ソファの方へ座って待つ事になった。
「どう?」
兄貴がそっと聞いてきた。
怜子さんは台所に手伝いに行っている。
兄貴も手伝えよと思わないでもないが、お祖母さんの世代の人は男性が台所でウロウロするのは嫌がるかもだし、兄貴の家事スキルがどの程度なのかも分からない。変に口は出さない方が良いだろう。
「ちょっと退魔師になる才能があったみたいで、それが中途半端に覚醒して少し悪戯をしていたみたいね。
色々と処分しなくちゃいけないストレスのせいかも?
取り敢えず、才能の方は軽く封じておいたから。何か想定外なことが起きない限り、これで大丈夫じゃないかな?
何か問題が起きたらまた呼んで」
悪霊とか生霊レベルまでいかない、ちょっとした才能の中途半端な覚醒によるトラブルは元素系魔術師よりも黒魔術師の方が対処に向いているんだよね。
だから怜子さんが一人前になっても私を頼る方が良いと思う。
「ここら辺も施設に入るとか亡くなってしまったとかで売りに出される家が増えちゃって。中々売れない家もあるようだし、空き家になっている家も増えて寂しくなってきちゃったのよねぇ〜」
クッキーなどを載せたのお盆を手にお祖母さんが現れる。後ろからティーポットやカップなどを別のお盆に載せて怜子さんが続いている。
確かにお茶を出す時に揃った模様のティーセットを使うと、中々素敵だね。
「今は家とかマンションとか、物凄い値上がりしているらしいですから中古の家でも欲しがる人は多いのでは?
それとも、こんなに素敵なのに壊して売るんですか?」
ちょっと勿体無いなぁ。
今まで入ったボロい家みたいにギシギシなったりしない、綺麗な家なのに。
まあ、壁紙はちょっと切れ目のところが捲り上がり掛けてるところもあるが。
一体何年前に建てた家なんだろ?
「いえいえ。
壊したら土地だけでは売れないです!って不動産屋に言われちゃって。
ちゃんと家の外壁とかの手入れを定期的に業者を呼んでやっていたので、ここなら売れますよって言われたのよ〜」
ちょっと誇らしげに言われた。
へぇぇ。
戸建てって外壁の手入れを業者を呼んでやらなきゃいけないのか。
面倒そう。
私はいつか家を買うにしてもマンション一択だな。
でも、壊したら売れないってなんで??
日本だと中古の家って十年ぐらいで資産価値がほぼゼロになって、基本的に壊して更地にして売るのが一番売りやすいと聞いた気がするけど。




