郊外の住宅地
怜子さんの祖父母の家は、郊外に伸びる私鉄の駅から歩いて20分強ぐらいのところにある戸建てだった、
ちょっとした丘を丸ごと切り拓いて開発したのか、何本かの坂が並んだところに戸建てがずらっと一面に並んでいる。駅からの道のりは坂を降りた後にもう一度登る感じで、中々運動効果が高い。
静かだし、各家に庭があり、今時の都内で見かける敷地ギリギリに建てたミニチュアハウスっぽい家よりずっと『家族と周囲の住民と共に子供を育てる住宅街』と言う印象で、中々良い感じだった。
なんかこう、庭の全然ないミニチュアハウスって家に引き籠る印象が強いんだよね。何と言うか、『実質マンションだけど、隣人達と共用部を分け合いたくないからミニチュアでも戸建てに住んでます』って感じで。
まあ、今では庭があるような家が高額過ぎてミニチュアもどきになっているだけで、好みの話では無い可能性が高そうだけど。
それはさておき。怜子さんのお祖母さんちのある住宅街は、坂の途中だから各家が道よりちょっと高い位置に建っていて、斜めな擁壁に少し苔が生えている感じで歴史も感じられる。
道から門を開けて玄関に入るまでに階段があるので、足腰が弱った高齢者が一生住める場所じゃあないだろうけど。だが家の中は道から覗き込めないから、プライバシーがあっていい感じだね。
駅から歩いて20分強と言うのはかなり大きなマイナスだけど。
階段と、最寄り駅から(スーパーもだろうね、近くには見かけなかった)の距離を考えると、配偶者を亡くした高齢者が1人で住むのには向かないよねぇ。店が遠いからと買い物を全てネットショッピングで済ませていたら、ますます足腰が弱るだろうし。
本人がそれを自覚して高齢者マンションに入ることにしたのか、家族が頑張って説得したのか知らないが。考えてみると、坂の途中の家って素敵だけど色々問題ありなんだろうなぁ。
と言うか。
よく見ると、住宅街内のいくつかの家はかなり古く、更にそのうちの幾つかからは空き家っぽい空虚感が感じられる。
考えてみたら、丘の一面に一様な家が立っている場所って、要は大規模開発で一気に丘を削って住宅地にしたのだろう。
郊外の駅からちょっと遠くとなると、戦後の……もしかしたら高度成長期あたりだったのかな?
だとすると、その頃に買ったのが怜子さんの祖父母世代って事で、皆がそろそろ亡くなっているか高齢者施設に移る途中で断捨離を頑張っている最中かなんだろうなぁ。
そう考えて周囲の家を見回してみると、物寂しげな霊の残滓が残っている家もいくつかありそうだ。
悪霊と言えるほどの存在は少なくとも怜子さんのお祖母さんの家がある通りには居ない様だけど、未練が『心残り』として魂の一部を残しているっぽいところはあるみたい?
そう考えると。
怜子さんの見えた霊っぽい何かもお祖父さんの『心残り』なのかも?
問答無用で祓っちゃうのは可哀想な気もするが、せめてお祖母さんと一緒に次の住まいに移動するよう、お祖母さんの結婚指輪(今でも嵌めてるなら)にでも紐づけておいてあげようかな〜。
そんな事を考えながら、中々素敵でお洒落なタイル張りの家のインターホンを鳴らす。
表札に下の名前まで書いてあると不用心だと思うし、マンションだったら表札自体を出さない人が多い(ウチも出していない)が、こうやってみると戸建てだと少なくとも苗字は出しておいてくれないと、インターホンを鳴らす時にドキドキするよね。
『ああ、いらっしゃ〜い。
今玄関を開けますね』
怜子さんの声がインターホンから帰って来た。
カメラ付きのインターホンだから、私の姿が見えているんだろうな。
それでも玄関を開けられるようなオートロックではないようだ。
まあ、マンションでも下の共有部のオートロックの自動ドアは開けられても、玄関はインターホンで開けられない事が多いらしいからね。
そんなものだろう。
門を開けて玄関まで階段を登っていて良いのかな?と躊躇していたら、ガチャっと鍵が解錠される音がして玄関が開き、兄貴が顔を出した。
「来てくれてありがとな〜」
やって欲しい事がなければ東京に来ても声を掛けるつもりが無かったのがバレて、ちょっと気不味気に私へ手を上げながら兄貴が声を掛けてきた。
考えてみたら、まだ結婚もしていないのに婚約者の祖母の断捨離に付き合うなんて、兄貴もかなり尻の下に敷かれてる?
まあ、少なくとも息子・兄としては家の手伝いをほぼ何一つしなかった人間なのだ。
尻の下に敷いてこき使わないと、うっかりすると亭主関白になりかねないからね。
最初の躾が重要ですよ、怜子さん!
ガンガンこき使っちゃえ!
「ちなみに、実家にも顔を出すの?
ちゃんとお母さんにお土産持っていきなさいよ〜?」
階段を登りながら兄貴に釘を刺す。
一応親として、両親も兄貴のことを気にかけているだろう。
北海道から東京まで出てきたんだから、せめて実家に一度は顔を出さなきゃ、きっと傷つくよ?
「もう行った後だよ」
兄貴が肩をすくめながら言った。
あれ、そうなんだ?
じゃあ、私が貰うチョコはスペア?
そんな気の利いた事を兄貴がするなんて、意外だ〜。
怜子さんが買っておいたのかな?
まあ、取り敢えず。
家の中を拝見させて貰いますか。




