バブル期の名残かな
スマホの通知音が鳴ったので、手に取ってみたら珍しく兄貴からのチャットだった。
おやぁ?
なんの用だろう。
快適生活クラブのサイトに何か問題が起きたのかな?
サイト管理なんて私達には難しいので、毎月アイピローとクッションを1つずつ送る約束で兄貴には管理を頼んでいる。
正式稼働し始めたのは今月からなんで、何か問題が発覚したのかもと思って慌ててスマホを手に取る。
『鏡とか、花瓶とか、海外ブランドのティーセットとか、要らないか?』
質問後に写真がズラズラと届いてきているお陰で、通知音がひっきりなしに鳴っている。
「大丈夫?
何かあったの?」
作業部屋で符を描いていた碧が心配になったのか、声を掛けてきた。
「いや、多分大丈夫?
なんか兄貴が鏡や花瓶やティーセットを要らないかと写真を送ってきてるだけだから」
碧に答えながら兄貴にチャットを送る。
『何で急にこんなのを勧めてきたの?
ITのシステムエンジニアから古美術商に鞍替え??』
古美術という程古そうじゃないけど、新品にしてはちょっとイメージが違う。
ティーセットは白地に淡い青が綺麗な海外のブランドっぽいから新しいも古いも無いが、鏡はちょっと昔風に手が込んだデザインだし、花瓶も大きくて派手っぽい気がする。
今時、私らが買う感じの物じゃあないよね?
まあ、単に私の趣味に合ってないだけなのかもだが。
と言うか、こう言う大きい派手なのは、それこそ退魔協会に依頼してくるような金持ちの豪邸じゃないと似合わないよね。そんでもって豪邸の持ち主は……骨董品はまだしも、中途半端に新しいブランド物の中古を買ったりしないでしょう。
『怜子の実家に、祖父さんの一周忌と結婚の詳細の相談を兼ねて来た。そしたら丁度、祖母さんが高齢者用マンションに入ることになって断捨離中だったんだけど、物がありまくりで困ってるって泣きつかれてるんだ。
買取業者に売ろうとしても金が含まれるアクセサリーや万年筆とかは家探ししかねない勢いで求めてくるのに、昔高かった一流品なんかが二足三文にしかならなくて、祖母さんが激怒しているらしくって。
だから貰ってくれないかって言われて困ってるんだ。
お前、要らない?
知り合いで欲しい人が居たらそっちに横流しでもいいから』
何事かと聞いたら、どば〜〜!っと返事が返ってきた。
なるほど、怜子さんの祖父母の物なのね。
バブル時代とかその終焉直後ぐらいに買い集めた物だから、ちょっと派手で大きいのかな?
とは言ってもねぇ。
「多分バブル期に買ったと思われる、ブランド物かも知れない鏡とか、花瓶とか、ティーセットとか、いる?
なんか兄貴の婚約者のお祖母さんが高齢者用マンションに引っ越すから断捨離中なんだけど、買取業者が思うような値段を付けてくれなくて困ってるらしい」
碧にタブレットの写真を見せながら聞いてみる。
「あ〜。
私の方も親戚とか近所の知り合いの話でそう言う話はちょくちょく聞くわ〜。
最近はバブル世代と言うか団塊ジュニア世代と言うかが、亡くなっちゃうとか高齢者施設に入るとかで本人や家族が家財の整理をしようと一斉に動き始めているから、あの世代が買い集めた『一級品』が全然売れないらしいね。
買取業者は金のアクセサリーとかは欲しいから喜んで買取査定をしに家まで来るけど、買い取って欲しいものには殆ど見向きもしないくせに、売り易い物は奪い取る勢いで買い取ろうとするんだって〜」
符を描き終えて筆を置いた碧がそう言いつつ、私のタブレットを覗き込みに来た。
「なるほど、バブル時代になって『日本も豊かになった!!』とギリギリ一流と言われる物をちょっと背伸びして買い揃えていた世代が、皆してそれを売ろうとして売れなくなってるのかぁ。
私らにしてみれば、大抵の物はニ◯リや100円ショップや無印◯品で良いかな〜って感じだから、こう言うブランドを売りにしてる昔の高かった物なんていらないもんねぇ」
今までの案件で時折見てきたような数百年前の骨董品とかだったらまた話は別なのだろうが。
中途半端に古いブランド物なんて、気軽に日常使いには向かないけど態々買うほど欲しいとも思わないって感じで、くれると言われても要らないかなぁ。
「立派なブランドの食器や茶器なんて、あったところで人を家に呼ぶ気はないからねぇ。
誰かと食事を楽しむならレストランを予約するし」
人にご馳走するために料理するのは面倒過ぎる。
「だね〜。
鏡はすでに買ってあるし、花瓶は……態々花を買わないから、やっぱ要らないよね」
碧がちょっと残念そうに言った。
誰か親しい高齢者の断捨離で既にこんなやり取りはしてるのかな?
戦後の餓死一歩手前の苦労を体験してきた(多分)祖父母世代が豊かになった喜びと共に買った品々がゴミ扱いになるのって残念で可哀想と言う気はするけど、実際に貰っても数年に1回使うかもって程度で、それ以外の時は邪魔なだけだからねぇ。
「碧の実家も要らない?」
宮司だったら海外旅行って行かなそうな気もするから、海外のブランド物なんて買い漁って無いかも?
「親戚や知り合いの高齢者から色々と押し付けられているし、本当の骨董品も沢山あるから。
第一、うちの実家に海外物のブランドってちょっと似合わないでしょう。
まあ、この青いのだったらまだ地味で落ち着いているから絶対にないって訳じゃあないけど、確かその理由で既に誰かからそんな感じのを貰っていたと思う」
碧が苦笑しながら言った。
今の世の中じゃあ、買うよりも処分する方が大変なんだよね〜。
日本って中古品はあまり人気がないし。
取り敢えず。
『悪い、要らないわ〜』
兄貴には断りに返事だけ、出しておこう。




