大量殺人未遂
「あ、田端さんですか?
退魔師の長谷川です。
実はちょっと手伝って頂きたい事がありまして」
卒業生と家族が順番に横から出て行っている間に、誰かがペンチを持っている用務員か何かを連れてきたのか、正面の大きな扉も開かれて、退出速度が大分と早くなった。
とは言え、何千人もの人間が一気に出ていくのだ。
時間は掛かる。
講堂内にいたのは大多数が卒業生で、少数の早く来た(?)家族が中の席を得られたのだが、態々苦労して席を取ったのに危うく焼き殺されそうになった上に卒業式が中断されちゃった家族も不幸だよねぇ。
まあ、話の種にはなるかもだが。
それこそ、子供が表彰される事になったとかで遠方から来た家族とかも居ただろうに。
あのアホはそう言う連中からガッツリ精神的に苦痛を含めた損害賠償請求を受けて、たとえ出所しても死ぬまで借金漬けになってしまえば良いんだけど。
と言うことで、自分の座っているブロックの順番がくるのを待つ間に、しっかりアイツが捕まるように手を貸そうと退魔協会へ警察から出向している田端氏に電話することにした。
時折警察の捜査にも協力しているのだ。
今回の犯人逮捕に、手を貸してもらっても良いだろう。
『どうしました?』
田端氏が穏やかに聞いてくる。
「実は、今日は私と碧の卒業式だったんですよ。
ところがどうも就職戦線で敗退した同期の男子生徒が、卒業生を全員殺せば企業が採用活動を再開すると思ったらしく。卒業生と一部の家族が入った記念館の扉をチェーンロックで封鎖した上で中でステージのドレープに火をつけようとしまして」
『はぁ?!?!
大丈夫ですか?!
消防車を呼ぶ必要がありますか?!』
田端氏の慌てた声が割り込んできた。
私がのんびり話をしている段階で、大丈夫に決まってんじゃ〜ん。
でもまあ、心配してくれてありがとうって言うべきだよね。
「心配していただいて、ありがとうございます。
発火はしたものの、早いタイミングでスプリンクラーが起動したので誰も怪我はしていないと思います。今は無事に順序良く皆で退出中ですし。
それで、ですね。
件の男子生徒にはちゃんと殺人未遂で逮捕されて欲しいので、こちらの警察がしっかりそいつを調べるよう誘導してもらえませんか?
幸いと言うか、そいつは横の扉を封じようとしていたところで火災警報器が鳴って、焦った中の人間が勢いよく開けた扉に当たって意識不明になって倒れたところを多分確保されているので、既に容疑者扱いな可能性は高いとは思いますが」
確かそれなりに良い家の息子だったし、あまりにも行動が非常識すぎて犯人だと思われない可能性もある。そうなった場合に担当の刑事を私が説得するよりは、田端氏にしっかり調べた方が良いよ〜と助言してもらう方が楽だと思うんだよね。
素人が探偵気取りで『こいつが犯人よ!』と捜査をしている刑事に言ったところで、耳を傾けて貰える可能性は限りなく低そうだもの。
そうなると、私が単なる素人ではなく、超常的な手段で情報を知り得る立場にあるって事を知っている警察の中の人から良い感じに話を通してもらう方が良いでしょう。
大抵、探偵ものって素人が出しゃばるなと邪険にする刑事を説得するのに無駄に時間を取られるか、もしくは外部の人間なのに何故か無闇矢鱈と警察に頼られて問題を次から次へと解決する羽目になるかの二択な気がするんだよねぇ。
どっちも嫌だから、ここは田端氏にちょっと頑張って欲しい。
『はあぁぁ。
なんとも、記憶に残りそうな卒業式になりましたね。
分かりました、そちらの大学の事件に関して呼ばれそうな人間に電話をしておきましょう』
あっさり田端氏が応じてくれたので、アホの名前と学部を伝えて電話を切った。
お、やっと私らも出られる番になった。
外に出たら、卒業式のやり直しの関しては大学からの連絡が今日中に来るから、今日はこのまま教室に行って卒業証書を受け取り、謝恩会へ行くようにと大学の職員がメガホンで指示を繰り返していた。
卒業式、もう一度やるの??
この後卒業証書も貰っちゃうし、謝恩会もやるのに?
確かに表彰される筈だった人は可哀想だけど、もう一度態々集まってやるのは億劫かなぁ。
参加率が激減して、却って侘しくなちゃうんじゃない?
もう諦めちゃう方が良いんじゃないかなぁ。
表彰される筈だった人にとっては良い迷惑だろうけど。
マジであのアホ、大量殺人未遂で終身刑でも喰らって欲しいね。




