順序正しく
何と言っても正面のステージの袖幕が燃えているのだ。物凄く目立つ。
最初は火災警報器の音を誤作動だろうと思って呑気にそれが止まるのを待っていた学生や家族も、ステージの横から煙が溢れ出てくるのを見て、一気にざわめきが大きくなった。
そっと後ろの扉付近にいた人が、扉を開けようと動く。
「!! 扉が開かない?!
閉じ込められることになるぞ!
さっさと鍵を開けさせろ!!」
余計な事を。
大声でどっかのバカが叫んだおかげで、一気に講堂内にいた人達が浮き足だった。
他の人たちも後ろ側に複数ある大きな扉に飛びつき、開けようとガチャガチャ力尽くで押したり引いたりし始めた。
でも自転車のチェーンロックって、普通に引っ張る程度でちぎれはしないと思うよ〜。
『落ち着いて!
誰か外に知り合いや家族がいる人は携帯で連絡して、用務員さんでも見つけてバールかペンチか何かを持って記念館に来るように頼んで!
横の扉のそばにいる人が開かないか、確認してみる!
その他の人は将棋倒しを起こしたりしないように座って待って!』
魔力を込めて、声を上げる。
こう言う大人数が集まった場所で火事が起きた時なんかは、燃えやすい素材が大量にあるとでも言うんじゃない限り、パニックになった人の将棋倒しの方が、火や煙より危険だろう。
新しく数年前に建て直した記念館なのだ。
きっとスプリンクラーとかがあるだろうし、使っている素材も防炎加工されている筈。
アリーナになっているフローリングを傷付けないように敷かれたカバーが燃えやすいとか、火が付いたら有毒ガスを出すような危険物じゃないと良いんだけど。
幸い、まだ中にいた人間の殆どは非常事態であると言うことに対して半信半疑だったおかげか、私の魔力を込めた命令を比較的あっさりと受け入れた。立ちあがろうとしていた人達も座って携帯を取り出す人が多い。
皆で一斉に携帯を使い始めたら接続が悪くなりそうだけどね。
「ここは開く!」
誰かが声を上げた。
「こっちもだ!」
「ここも……うわ、失礼。
あれ? こいつ、チェーンロックなんて持ってる?!」
誰かが扉を体当たりする勢いで力一杯開けようとして、外で倒れていたアホにドアをぶつけたらしい。
お。
鍵を掛ける前にクルミが昏倒させたのか。
これだったらチェーンロックを使おうとしていたところで中から開いた扉に頭をぶつけて意識不明になったように見えるかな?
一気に講堂内の空気が安堵に緩んだところで、前方で上から水が落ちてきた。
シュワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
どうやら消火器での火消しは間に合わなかったのか、記念館の前の方で一斉にスプリンクラーが水を落とし始めたのだ。
うわぁ。
嬉しいし一安心だけど。
ああ言う水って、清潔なのかな?
屋根とかどっかに溜めてあった水だったら下手をしたら腐ってそう。
幸い、私は講堂の後ろ半分にいたお陰か、こちらはスプリンクラーが起動していないので水に異臭がするかを自分で確認する羽目にはならなかった。
『皆さん、スプリンクラーが作動したのでもう炎は消えつつあります!
落ち着いて列ごとに前から順に横の扉から出て、記念館の前の広場でお待ち下さい!
繰り返します、もう火は消えますから、危険はありません!
落ち着いて外へ前から順番に出て行ってください!』
スピーチをやっている最中でマイクを持っていた学長が、声を上げて皆に順序よく出ていくように指示した。
本当に火が消えてるんかね?
まあ、スプリンクラーのおかげで講堂の前半分は濡れているから、火事が燃え広がるリスクはかなり減っただろうから、多分嘘じゃあないだろうね。
『ステージの後ろの扉も開いてるにゃ〜』
横の扉を確認しつつ動いていたクルミが、後ろの方の扉も開いていると報告してきた。
『ありがと。
一応外や廊下を見て回って、変な行動をしている人間がいないか確認しておいて』
まあ、あのアホが集団で悪事をするほどの協調性があるとは思えないが。
利用するだけ利用しようとした協力者がいる可能性だってゼロではない。
一応見張っておいて貰おう。
取り敢えず。
服や髪が煙臭くなる前に外に出たいが。
順番はまだまだっぽいなぁ。
まあ、学長がさっさと逃げようとしなかっただけ、良かった。
あまり不味い事をやられて大学の評判が落ちたら、四年分の学費を払った『この大学卒』の市場価値が落ちちゃうからね。
しっかりまともな人で、助かったわ〜。
大学卒の肩書なんて、退魔師には必要ないけどさ。
まあ、無駄に評判が落ちるよりは良い方がありがたい。
そう言えば、うちの親には卒業式の見物に来なくて良いって言ってあるんだけど、ニュースで見たりしたら焦るかもだよね。
一応チャットで安全だよ〜とメッセージを送っておこう。




