初期消火活動
『そのタバコの火を消せない??
じゃなきゃせめて、その袖幕から離して!!』
ハネナガに頼む。
『やってみよう』
ハネナガがブックマッチの前に立って嘴でタバコを摘もうとする。
ちょっとだけタバコの先がグニっと凹んだが、火は消えない。
まあ、タバコって一旦火が付いたら強風の中とかでもそう簡単に火が消えないものだもんね。
ちょっと潰した程度では火が消えないのは不思議ではない。
ぐい、ぐいっとハネナガが首を動かしてタバコをブックマッチから抜き取ろうとしているが、中々動かない。
視界共有でよく見たら、転げ落ちないようにかホッチキスでタバコがブックマッチの土台になっている厚紙に固定してあるんじゃん!!
『それ、留めてあってタバコをブックマッチから離すのも火を消すのも難しいと思うから、せめて袖幕から離して!』
ハネナガに指示を出す。
最初に火を消してと頼んだのは私だが、ちょっと無理っぽいから次善策だ!
ハネナガが嘴でタバコを摘んだまま後ろへ下がろうと動く。
ずりずりと、それこそ蟻の群がカブトムシの死骸とかを巣に持ち帰るような感じにゆっくりとブックマッチが動く。
いや、これって蟻がカブトムシを動かすよりも遅いかも??
ヒヤヒヤしながら見ていたら、とうとうタバコが根元まで燃え、マッチがブワッと火を吹いた。
うぎゃぁぁ!!
ブックマッチが一斉に燃え上がり、その炎が厚紙の箱に燃え移り、更に床を炎が這って袖幕に辿り着く。
どうやら袖幕だけでなく、周囲の床にも燃焼促進剤を蒔いていたらしい。
ここまで用意周到に大量虐殺しようと頑張るのではなく、もっと普通に学生として頑張ったら就職もできただろうに。
……まあ、勉強をちゃんと頑張っていても。傲慢さや性格の悪さが面接で滲み出てたら、それで落とされたのかもだが。
思わずため息が漏れる。
『そっちはもう無理そうだから、壁際の火災警報器のボタンを押せないか、やってみてくれる?』
ハネナガに頼む。
『やったにゃ!』
ハネナガが火災警報器に向かって飛んでいくのを視界共有で視ていたら、クルミから念話が届いた。
急いでそちらに意識を割いてみたら、床にあのアホが横たわっていた。
よし。これで記念館の出口が文字通り全て開けられなくなるのは回避できた。
『ありがとう!
次はこの記念館の講堂部分に入る扉を一周して、どこは鍵が掛かっていないかを確認して教えて』
クルミに次の指示を出す。
どっちの方向に向かえば外に出来るのかは知っておく必要がある。
『は〜い』『こっちは無理そうだな』
クルミの言葉に重なりようにハネナガの念話が聞こえてきた。
『無理って?!』
慌てて視界共有をハネナガの方に戻す。
使い魔たちが、共同作業でちりとりで雑草を集める様な場合なんかは複数の使い魔の視野を共有して見ることも可能なのだが、今回は全然違うことをそれなりに離れた場所でやっているせいか、2体分の視界を同時に共有するのが難しい。
で、ハネナガはと言うと。火災警報器のボタンをカバーしている透明なプラスチック板(キャップ?蓋?)に体当たりしているが、全く何の効果も得られていないようだ。
うわぁ。
うっかり間違いで押しちゃったりしないようにカバーがついているんだろうけど、これじゃダメじゃん!!
ヤキモキしながらハネナガの体当たり頭突きを見ていたら、シュワ!と言うかボワ!と言うか、なんとも言い難い音と共にハネナガの斜め横で袖幕が発火した。
うげげげげげ!
一気にハネナガがいる辺に煙が出てきている。
これで火災警報器が鳴るかな?!
と言うか、スプリンクラーが単体で動いてくれても良いんだよ!?
『ハネナガ、そっちの火災警報器は諦めていいわ。ちょっと天井にスプリンクラーのキャップみたいのがないか、探してみて』
確かスプリンクラーって小さなキャップみたいのが天井についていて、それが熱で外れたら水がシュワ〜って放水される仕組みなんだよね??
袖幕が燃えているだし、そろそろ起動してよ!!
と思っていたら、舞台脇に立っていた人がふと振り返ってギョッとしたように二度見したのがハネナガの視界の端で見えた。
慌ててその男性がハネナガが奮闘していた火災警報器の元へ駆け寄り……それを鳴らすのではなく、下にある消火器を手に取って袖幕の方へ向かった。
ちょっとぉ!!
火災警報器を鳴らしてから消火を試みてよ!
卒業式を中断させたくない気持ちは分かるけど、燃え始めた炎ってそんなに簡単に止められないかもなのよ?!
そう考えていたら、突然けたたましい非常ベルの音が記念館の中に響き渡った。
どうやら袖幕の炎がどこかの火災警報器を動かすだけの熱を生み出したらしい。
『もう良いわ。
ありがとう』
ハネナガに礼を言って、解放する。
結局、霊体だけの使い魔は、火事の初期消化活動には向いていないらしい。
初期消火活動は完敗だった。




