待機時間
「あれ?
来るのは明日か明後日かだと思っていた」
霊泉と社員寮の間取り図目当てに顔を出した私たちを見て、美帆さんが驚いたような顔をした。
「何かね〜。
曽根家の依頼なんだけど、当主が母親や義嫁と組んで依頼を出したとは言え、曽根家の血を引く人間全てが影響を受ける可能性が高いってことで、影響を受ける人間全員の意見収集をするから少し待ってくれって言われた」
碧が肩をすくめながら答える。
あそこにいた曽根本家の人間だけで話し合うかと思ったら、結局生きていてメールを読める一族全員に意見を聞くってことでメールを出すから数日待ってくれと言われたのだ。
各世代で何人いるか分からないし、若死するから人数も極端には多くないかもだが、それなりな人数から意見収集なんてどれだけ時間が掛かるか分かったものじゃない。
碧が「待っている間でも日給が発生しますし、長野にいつまでもいるのはこちらの都合的にも問題が起きてくるのですが」と渋ったら、日給を払うから取り敢えず3日以内に連絡するからそれまで待ってくれと言われた。
折角白龍さまの愛し子が依頼を受けているのだ。上位的存在に契約の条件変更を乞うならば、今しかないと思ったんかもね。
「ああ、あの曽根家?
呪いじゃ無かったんだ?」
美帆さんが苦笑しながら、頼んでいた私たちの部屋の間取り図をPCからプリントしつつ言った。
「嫁いできた妻や母親は呪い扱い。
本人たちは思う存分やって成功する為の対価って感じかな。
ただまあ、人生五十年の時の契約を人生百年と言われるようになった今もそのままなのはどうなのかって一族の人間の一部が思い始めたみたい」
碧が間取り図を受け取って一枚を私に渡しながら美帆さんに答えた。
「あ〜。
確かに?
とは言え、再交渉って上手くいくとは限らないけどねぇ」
美帆さんがノートパソコンの蓋を閉めながら言った。
「そう。
だから一族内で話し合いする間、数日待ってくれだってさ。
その間に私らは部屋の寸法とか確認して、諸々の作業をしておこうと思って。
もう部屋は入れるんだよね?」
碧が尋ねる。
「ええ。
電気やガスや水は通ってないから、使うなら契約する必要があるけどね」
美帆さんが指摘する。
「了解〜」
と言う事で、先に社員寮の方へ。
温泉は作業が終わってからのお楽しみ。
「考えてみたら、冬の間は出入りするならしっかり水を抜いて水栓を閉めるか、水を出しっぱなしにするか。どちらかしとかないと水道管が凍るわね」
碧が言った。
「げ。
朝に顔も洗えずトイレを流せないなんて、困るんだけど」
今までは冬に諏訪に来ても碧の実家に泊まっていたからなぁ。
碧ママがちゃんと対処していたんだろう。朝起き時に水が出ないなんて騒ぎは一度も体験していない。
私の部屋に1人で過ごすようになったらしょっちゅう碧のところに『助けて!』と駆け込む羽目になりそうだ。
「水が出ないのも問題だけど、水道管が凍ったら場合によっては破裂するのよ。
その修理代は入居者負担だからね?」
碧が指摘した。
「そうなの?!」
そう言えば、そんな話を聞いたことがあった、かも?
「メインから引いてくる部分の水道管が破裂したなら水道局の責任だけど、アパート本体にひいた後の水道は住民の責任よ〜。
だから寒くなる時期はこっちに来ないってことにするなら、秋からでもここを出る時にちゃんと水抜きする習慣にしとかないとね」
碧が言った。
「考えてみたら、将来的に誰かを雇ってこっちで働いてアイピローやクッションの出荷準備とかを頼むとしたら、職場のトイレが流せないんじゃ話にならないよね。
そうなったらその人らに毎晩水を少量出しっぱなしにしておいて貰うの?
なんか忘れられた時に問題になりそうだし、水道代でも不満が出そう」
水を出しっぱなしにするのってそれなりに水道費が掛かるって話だと聞いた気がするんだけど。
「う〜ん、中々面倒な話になりそうだね。
冬は東京メインで活動するとしたらこっちでクッションやアイピローに符を詰めたり、出荷したりの作業は私らが居る時だけ……と言う訳にもいかないし」
碧が顔を顰めた、
アイピローもクッションも、1ヶ月で廃棄推奨なサブスクなのだ。
冬は送りませんなんて言う訳にはいかない。
そうなるとやっぱ、冬は諏訪に来ないと言うのは無理だなぁ。
まあ、今年は取り敢えず誰も雇わずにやってみるつもりだから、どんな風になるかは実際にやってみて様子見だね。
それはさておき。
部屋の寸法とかを測らねば。
基本的に碧と私の部屋の間取りって左右逆さまだけど同じだから、一つの部屋を測ればもう一つの方も同じ筈。
一応何ヶ所かは計り直して確認するけど。
あとはドアのサイズとかも一応確認した方がいいんだろうなぁ。
家具っていざとなったら窓から入れるのも可能って話だけど、そんな事になったら送料が跳ね上がるか、店から送付拒否でもされそう。




