尊厳は大事
「無事、菅野氏が救出されたそうです!」
碧と駄弁っていたら、運転席の扉が開いて田端氏が顔を突っ込んできて教えてくれた。
考えてみたら、私らに遠慮して田端氏がずっと寒い中外で立っていたんだね。
入ってきて良いんですよ〜と一声掛けるべきだったかな?
まあ、仕事関係の電話をしているなら私らに聞かれる訳にいかなかっただろうけど。
「それは良かったですね。じゃあ、あちらの霊を昇天させて我々は依頼終了という事で帰って良いですか?」
碧がにっこりと尋ねる。
「ええ、そうですね」
微妙にもっとなんかしてくれたら嬉しいんだけどな〜と言う感情が田端氏から滲み出ていたが、素知らぬふりをして私らはジャンケンをして、負けた私がさっさと車から出て相変わらず周囲をちょっと困惑気味な顔で見回していた金子のところに行った。
「もう、死んじゃったのは分かっているよね?
このままここにいても良いことはないから、さっさと昇天して次の人生に賭けてみたら?」
『そうだな〜。
考えてみたら、俺ってトラックに轢かれて死んだって言えなくもないよな?!
としたら、次はトラック転生かも?!』
嬉しげに金子が言った。
いやいやいや。
トラックに轢かれたら転生するんじゃなくって、魂はどれも死んだら次の命に生まれ変わるだけだよ。
記憶を持って転生するのも私みたいな特殊なケース以外はほぼ無いらしいし、トラックで轢かれてもそれは変わりはないと思うな〜。
と言うか、白龍さまですら魂の転生に手を出せないのだ。
トラックで死のうが、神様がうっかりで殺そうが、チートなスキル付きな異世界転生はほぼないと思うよ?
次の人生で何かスキルやギフト適性を持って生まれるかもだけど、それは単なる偶然。
地球全体の平均的人生の状況から考えたら、現代日本に生まれた今世だって中世的なナーロッパ世界での準チート相当と言って良いぐらい恵まれていたと思う。
なんと言っても殺されたり売っぱらわれる危険なしに飢えずに育てられ、読み書きまで無料で学べるんだから。
それでちょっと怪しげな組織に入っちゃって最後はお金(と仲間だろうね)の為に違法行為に手を出して死んじゃったんだから、かなり残念な終わり方だ。
次の人生がもっと実りあるものになると良いね〜。
まあ、そんな恵まれた日本でも運が悪ければ、ブラック企業でモラハラ・パワハラ上司に滅多クソに詰られながら過労死と言う悲劇ルートも最近は増えてきたみたいだけど。
人を殺していないのが本当なら、人を誘拐するぐらいは極端にカルマにマイナスな影響は無かったと期待しておきましょうかね。
幸い、菅野氏は無事に救出されたらしいし。
「ほら。
上の方が明るく見えるでしょ?
さっさと光に向かって進みなさい」
金子をせっついて霊に昇天を促す。
人に術で昇天させられるよりは、自力でいく方が多分魂にとってもいいんじゃないかと思うんだよね〜。
『おお〜!
ほんとだ、明るい!!
じゃあな、道案内してくれてありがとよ!』
明るく手を振りながら霊が昇天していった。
マジで能天気だったなぁ、彼。
◆◆◆◆
数日後、諏訪で使う家具を見ていたらまた田端氏から電話が掛かってきた。
『実は……先日の菅野氏誘拐事件で、鎌倉の警察は犯人を捕まえられなかったそうなんです』
田端氏が言ってきた。
「そうなんですか。
それで誰か亡くなって地縛霊になったとか、報復に呪詛を使ったとかなんですか?」
そう言う依頼にしても退魔協会から来そうなもんだが。
『いえ。
犯罪解決の為に、金子竜太の霊を呼び出して彼の所属していた組織に関してもう少し情報を抜き出して貰えないかと担当の警察の人間から要望が上がってまして』
うう〜ん?
なんで田端氏経由で話が来るんだ?
「金子さんの直系の家族からそんな依頼が出ているのでしょうか?」
碧がスピーカーホンになっている電話に尋ねた。
『いえ。
遺族は見つかっていませんが……犯罪解決の為ならば第三者による死者の召喚は違法行為として罪に問わない慣習なので』
いやいやいや。
警察に頼まれてやるのに『罪に問わない慣習』???
ないわ〜。
第一、霊からの情報って証拠能力は無いし。
ある意味、呼び出して内部情報を無理やり聞き出して、違法行為の証拠がどこかに無いか探すってことでしょう?
それって裁判所の令状なしに、怪しいと疑われている組織に盗聴器を仕込むような違法行為とほぼ同じじゃない??
生きている人間を令状なしに閉じ込めて尋問して自白を強要するのは法的に禁じられいるのに、死んじゃった霊なら人権がないから無理やり仲間の情報を白状させようって……。
それってちょっと私のカルマに悪影響がありそうな、悪逆な行動だと思うよ?
犯罪組織の違法行為を見つける為とは言え、人を殺していない相手を追い詰める為に死者の尊厳を踏み躙るのはお断りだ。
「すいませんが、誰かの命に関わると言うのでしたらグレーなお手伝いも場合によっては行いますが、既に被害者が救助された事件で警察の捜査が上手くいかないからと死者の尊厳を踏み躙るのはお断りします。
どうしても必要だと警察が考えるのでしたら、正式に退魔協会の方へ依頼を出して他の退魔師にやってもらって下さい」
碧も首を横に振ってたので、ばっさり断って電話を切った。
これって、退魔協会に正式に依頼を出して通るような『お願い事』なのかね?
悪霊祓いや呪詛返しで依頼の方が退魔師よりも多くて大変な退魔協会だったら、事件の解決率を上げるための警察の依頼なんて、合法だとしても後回しにしそう。
退魔協会に派遣されている田端氏も板挟みで辛いのかもだけど、これは知らんね〜。
大体、あのちょっと能天気で抜けた金子竜太がいた組織なのだ。
それほど悪逆じゃないと思うよ〜?
それはさておき。
諏訪におくベッド、どれにしようかなぁ。
これでこの話は終わりです。
結局フラグはほぼ素通りw




