世の不思議
「うわぁ、マジか〜。
圧勝しちゃったんだ〜」
朝のニュースを見て、思わず声が溢れた。
「あら、凛は初の女性首相が嫌い?」
碧が横から尋ねる。
「減税と円安とばら撒きが国のためになると本当に思っているのか、それで人気を取って自分の任期の間だけ取り敢えず国が崩壊しなきゃいいと思っているのか知らないけど、どう考えても責任ある財政運営はしてないよね、あの人?
今回圧勝して参院の否決もひっくり返せる様になったから、不人気な政策も押し通せる様になって痛みの伴う改革を実行してくれるかもだけどさ。
そうなったら次の選挙の時は与党に投票するよ」
まあ、今回の選挙はマイナーなITを活用しよう!と訴えた新興政党以外はどこもかしこも減税を訴えていたから、あの首相も本当は減税したくないけど公約にそれっぽい漠然とした言葉を入れただけなのかもだけどね。
「痛みを伴う改革といえば、今となっては少数派な専業主婦を優遇する年金や社会保険制度の改革とか、国民の金融資産の6〜7割を所有している高齢者の医療費がやたらと安いのを是正するとか?」
碧が聞いてくる。
「そう言うのもあるね〜。
もっと切実に、軍事費を5%に増やせって圧力を掛けてくる同盟国の大統領の言うことを聞くための財源探しもだし。
マジで日本を『うっかり』滅びるまで助けないなんて事も最近のあの国ならやりそうだから、そろそろマジで軍備を増やすべきなんじゃないかなぁ。
まあ、軍備を増やしても政治家がアホなことを言って仮想敵国の言うことにハイハイ合意してたら意味はないけどさ」
マジで私らの老後にこの国が無事に残っているか、心配だわ〜。
しかも、国が残っていないだけだったらまだどこの国でも碧と私なら生きていけると思うけど、核戦争とか温暖化による気候変動とかで地球が実質滅びてたらかなり絶望的に厳しいし。
都合良い境界門がどっかに開いて、それで前世みたいな世界に逃げ込めれば良いんだけどねぇ。聖域の境界門は幻想界に繋がっているらしいから、私らが行ったらあっという間に魔素過剰摂取で死んじゃうだろう。
「結局、あの人って同盟国のおっさん大統領に上手いこと媚びて彼を気持ち良く接待出来たのと、うっかり国会で口を滑らして中国の怒りを買った後にあの国から叩かれまくったのに折れなかったので人気が出たのかな?
特に優れたことをしている訳じゃあないよね?」
碧が首を傾げながら言った。
「あの人気は本当に不思議だよね。
ある意味、中国が日本に圧力を掛けたおかげで人気をキープできて今回の選挙も勝てたって事で、彼女はあの国に恩を感じるべきかもなレベルだよね」
まあ、折れなかったのは偉いといえば偉いけど。
彼女の失言のせいで経済制裁を喰らった業界の企業にとっては良い迷惑だろうけどさ。
でも国民的な感情としては、こちらが悪くないのに叩いてくる隣国はムカつくから、そっちに負けないで発言を撤回しないあの首相はその分、人気が出たんじゃないかな。
大地震が起きた時の元野党政権なんて、あの国の漁船に日本の船がぶつかられたのに、世界の世論を全然上手く誘導できなくて、レアアースの輸出停止って脅しにあっさり折れてめっちゃ弱腰!!!って母が激怒していた。
まだ子供だった私はニュースで何を言っているのか全然分からなかったけど、母がガーガー父に文句を言っていたのは覚えている。
あの後は暫く、母がぶちぶちテレビを切る事が増えたんだよね。
アニメを見ている時はそうでもなかったから、あれってきっとあの時の政権の政治家の話が出てきたらテレビを消してたんだと思う。
選挙の不思議と国民感情のことを碧と話していたら。メッセージアプリから着信音がした。
お?
『紹介してくれてありがとう。
取り敢えず、数ヶ月一緒にお試しで働いてみて、大丈夫そうだったらそのまま続けることになりそう』
谷敷さんからの返事が来ていた。
「おめでと〜。
ちなみに妹さんの印象はどうだった?」
ラノベの独占欲マシマシなか弱い系妹じゃないとは思うけど、ちょっとは気になる。
『女性退魔師の苦労について色々と聞かれた。
どうも退魔師になるか、迷っているっぽい』
ふうん?
まあ、鍛錬を始める前だったら兄貴の蓮くんが能力を封じられるだろうから、無理にどこかに弟子入りする必要はないよね。
下手なパワハラ上司がいるブラックな企業に就職するよりは退魔師になる方が良いとは思うけど。ただ、弟子入り先を間違えるとそんなブラック企業顔負けなパワハラ師匠の下で何百万円も払いつつ雑用を押し付けられながら鍛錬する羽目になりかねないから、退魔師になるって言うのもそれなりにハイリスクだよね。
取り敢えず。
妹さんに関しては、蓮君に相談されたら考えよう。




