お嬢様は強し
子作りと女性への負担の話でふと思ったが、回復師の力を使えば人間の赤ちゃんを育てられる培養器を作れるかもと言う気もする。だがそんなデザイナーベイビーを作りかねない実験には碧も参加したくないだろう。
前世で白魔術師が子供を精子と卵子だけから作るのに成功したとは聞いたことは無いが、現代では細胞から育てる培養肉が商業ベースで割高とは言え可能になったのだ。回復師が命の流れや臓器の成長などに目を光らせて随時修正していれば、出産時点まで細胞を育てられる気がする。
それに魂が宿るかどうかは知らないが。
機械は無くとも色々と魔道具があり、魔術師も多数雇っていた王家ですら、デザイナーベイビーもどきを作らせている様子はなかった。
そう考えると、命の奇跡っていうのは魔術を超越しているのかも?
ならば科学も超越してそう。
それはさておき。
もう少し無難な方向に話題を転換しよう。
「そう言えば皆さん、依頼に行く時の服装ってどうしてます?
下手をすると現場が汚屋敷とか裏の山の中とか、工事中な家の庭なんてこともあるから中々悩ましいんですけど」
取り敢えず全面方向に地雷が多そうな結婚や出産の話を避けて、服装に関して聞いてみる事にした。
まあ、服装よりも靴が一番大きな問題だけどね。
服は……タイトなスカートでも履いてない限り、何とかなるかも。
うっかりどこかに引っ掛けたら悲惨な事になりかねないが。
「ハイキングシューズに黒いジーンズかな。
上のジャケットをそれなりにカチッとしたのにしておけば、意外と誤魔化せる」
小笠原さんが言った。
「あ〜秋から春まではそれでも良いかも〜。
でも夏はどうするの?」
谷敷さんがツッコミを入れる。
「夏はスマートカジュアルという顔でスラックスにポロシャツとスニーカー」
高柳さんが応じる。
小笠原さんと藤田さんも頷いていたので、男性陣はそう言う路線で誤魔化しているらしい。
「私は退魔協会の担当の方に、服やパンプスが破損した場合は損害賠償を退魔協会に請求しますからと言ってあるので、お洒落な服では問題がありそうな時は事前に教えてくれますわね」
綾杉さんが言った。
「お〜。
それは良いね〜。
ちなみに担当の人って女性?」
谷敷さんが尋ねる。
そうなんだよねぇ。
男性じゃあ女性がお洒落な格好で行くと問題になる状況って言うのを正確に把握してないかもだからなぁ。
「女性ですわ。
最初の男性の担当の時に何度か靴を台無しにして損害賠償請求をしたら、担当が変わりましたの」
にこやかに綾杉さんが教えてくれた。
「服が台無しになった時の損害賠償なんて、ありなんだ??」
自発的に退魔協会がそんな事を教えてくれないのは分かるが、私らも請求したら通るのかな?
まあ、そんなうっかり泥が付いたら台無しになるような服や靴は基本的に使わないけど。
「最初の頃に文句を言ったらクリーニング代を出すと言われましたのよ。
でも、クリーニングでどうかなるような服ではない場合も多いですからね。
ちゃんと元の状態の服と現状をしっかり写真で撮って請求したら折れましたわ」
なんかこう、言葉遣いからしてお嬢様ちっくだから、普段からオートクチュールの服でも着てるんかも。
そう言うのじゃあ泥まみれになったり、何かに引っ掛けたりしたらどうしようもないし損害賠償額も大きいしで、担当を変えるのもさもありなんってとこなのかも。
お嬢様は強いね〜。
きっと退魔師系の旧家か、普通に大金持ちな良家のお嬢様なんだろうなぁ。
「……うん、取り敢えず、作業服と長靴で行くべきか、お洒落な服で行くべきか、ジーパンでもオッケーなのか、今度から担当へ事前に聞いてみる事にするわ〜」
谷敷さんが諦めたように言った。
確かにちょっと綾杉さんは世界が違いそうだよねぇ。
退魔協会の女性職員って旧家の金持ちな男を引っ掛けるのを目的としているのか、どうも私を目の敵にしているっぽい言動をしているのによく当たっていたんだけど、流石にここまでお嬢様チックだと世界が違うって事で協会の女性職員たちも迂闊な事はしないんだろうなぁ。
良家のお嬢様だったら陰湿な女の争いなんかには慣れてて対処法もエグそうだし。
ウザい嫌がらせが無いっぽいのは、ちょっと羨ましいかも。
撃退術が秀でるほど慣れちゃうのは嫌だけど。




