少子化対策は難しそう
「女性は必ずしも子供が欲しい訳じゃあないんだ?」
ちょっと軽い感じで高柳さんが聞いてきた。
「将来的には?
でもまだ、やっと一人前になってこれからガンガン働いて稼ぐぞ〜ってやる気に満ちている時期に、妊娠はないでしょ〜」
谷敷さんが顔を顰めながら言った。
それに、酒好きだったら9ヶ月プラス授乳期間中の断酒も辛そうだしね。
「最初の3ヶ月ぐらいは気持ち悪くて出歩くのも辛く、それが落ち着いても今度は1リットルの水が入ったペットボトルを2本から3本、お腹に巻いたウエストポーチに入れて運ぶのと同じぐらいの重さを朝から晩までずっと1日24時間週7日、9ヶ月も持ち運ぶ事になるんですよ?
しかも。3ヶ月をすぎても運が悪ければしょっちゅう気持ち悪くなるのに、子供のために頑張って食べろと周囲からは圧力を掛けられるし。
たとえお金持ちな旧家で産んだ後は乳母と家政婦が至れり尽くせりで家事も育児も全部やってくれるにしても、出産という重労働は女性が負う羽目になりますからね〜。
しかも夫の実家に暮らしたくなかったら子供の世話とか家事も仕事の後に帰宅したら自分が殆どやる羽目になるかもだし。
そう思うと。結婚だけならまだしも、出産は出会って直ぐの碌に知らない相手のためにやろうとは思わないですよねぇ」
思わず寒村時代の苦労を思い出して妊娠時の愚痴と恨み事を口にしてしまう。
寒村だと男だって朝から晩までハードな環境で働いていたけどさ。
だが日本じゃあ下手に共働きになったら、同じぐらい仕事で働いているのに家の家事は8割女性負担なんて事になりかねない。しかも男女両方働いていても、女性は時短で働いて子供の世話をしろってなって、どれだけ有能でもキャリアで同期から遅れを取ることになる可能性は高いし。
まあ、退魔師だったらこれはあまり関係ないかもだけどね。
どちらにせよ。出産自体は100%妻側が苦労する事になる。
「まあ、私は誰かに会ってもすぐに結婚する気はありませんが、流石に結婚する際には子供を産んでもいいと思える相手を選びますわよ?」
ちょっと呆気に取られたように私の言葉を聞いていた綾杉さんが口を挟んだ。
「うわぁ。
好きにお酒を飲めないしスタイルが悪くなるとしか考えて無かったけど、確かに出産って大変そう〜。
ますます、マッチメイキングもどきな感じで仕事のパートナーを探している時に独身異性を勧めて貰いたくないですねぇ」
谷敷さんがぐいっとワインを飲んで言った。
おっと。
私が結婚や出産に対してネガティブなことを言いすぎると、後で退魔協会から苦情を言われるかも。
何分、5年ぶりとやらな特級術師なのだ。
若い退魔師にとっては見習う存在なのかもだから、そんな術師が妊娠・出産は不平等な負担を負う羽目になる重労働だなんて言っていると話が広まっては不味いだろう。
「そのうち、精子と卵子だけを提供したら子供が生まれてくる培養器が開発されるかもね?
世の中の女性のためにも、それを期待しよう」
笑いながら高柳さんが提案した。
「旧家じゃあそんな新しい機械を使った出産なんて絶対に認められなそう」
谷敷さんが指摘する。
「ある意味、女性の体を使わないなら妊娠期間の9ヶ月を待たなくて済むんだから、子供をできるだけ多く!と言っている旧家こそ、培養器を使うべきなのでは?
日本の少子化対策にも使えそうだ」
藤田さんが指摘する。
う〜ん。
どうだろ?
「旧家の跡取りは良いとして、他の家庭で子供が一人っ子になりがちなのって妊娠・出産が大変なだけでなく、子育ての経済的負担が大きいのもありますからねぇ。
国が卵子と精子を有志から集めて産ませた子を全部孤児院に入れて国のお金で育てるって言うんじゃ無いと、そうそう子供の数は増えなそう」
かと言って国の負担で子供を産ませて育てるとなると、その子供の人権とかが心配になってくる。
流石に問答無用で国のために働けって法律は作らないだろうが、孤児院とかで将来国のために自衛隊とか警察とかで働けとか、後継がいなくて困っている田舎の農村地域に行って地域社会を支えるべきだとか、国にとって都合がいい感じに洗脳まがいな教育しても不思議は無いかもと思える。
「なんか、SFの世界になりそうな話ね」
綾杉さんが吐き捨てるように言った。
どうやらこんな話題は不快らしい。
悪いことをした。さっさと別の話に方向転換しないとだね。




