需要に関する考察
「取り敢えず、今週末にでも一度実家に帰って聖域の雑草刈りをしようか。
考えてみたら夏の間にやっておいたらもっと大量に集められたかも知れないけど、もうそろそろ秋になって枯れかけてるだろうから、じっくり時間をかけて育ったのを刈り取って適当な長さに切って使えば良いよね」
碧が適当な紙を取り出してメモを取り始めた。
「そうだね。
どのくらいの長さと魔力濃度でどの程度の期間効果が残るのかとか、効果の程度とか、色々とテストする必要があるから実際に売り出すのは来年かな」
効果が無いのを売り出すのはダメだが、下手に効果が高すぎるのを最初に売り出して後から劣化させるのも良く無いだろう。
ちゃんと費用効果的に丁度いい程度のを継続的に売り出せるようにしないと。
「ちなみに、売り出すお守りは凛の安眠と、私の肩凝り対策の健康祈願だけにする?
最初に色々試して売れないのを後でやめても良いけど。
でも、ぶっ」
ちょっと考え込む様に腕を組んでソファに寄り掛かった碧の顔に源之助が飛び乗って言葉を遮った。
やりたい放題だね〜。
基本的に私ではなく碧に飛び掛かってるんで私は構わないけど。
「ちなみに肩凝りのってどう言う仕組みなの?腰痛とかにも効くのかな?」
肩凝りの方が需要は広く浅いだろうが、腰痛の方が切実で少しでも効果があったら買い続ける可能性が高い。
ただ、年齢層的に怪しげなお守りの口コミをネットで見て買いに来る様な若い世代に腰痛持ちなんてあまり居ないかな?
「筋肉の緊張を緩めて血流を良くする感じだから、腰痛にも多少は効くかな?
椎間板ヘルニアみたいな神経関係の痛みにはあんまり効果が無いだろうけど」
ふむ。
血流を良くするのか。
「それって生理痛とかにも効くかな?」
私は問題ないが、高校の時の友人には生理痛が酷くて学校を休む子まで居たが。
「生理痛は微妙かな。
経血がうまく出ない場合なんかの痛みには筋肉の緊張を緩めるのがある程度は効くとは思うけど、下手に血流が良くなりすぎると貧血を起こす人が出る可能性もあるからねぇ」
碧も色々と研究をしていたのか、直ぐに返事が来た。
「それよりも、凛の方で痛み止めのお守りなんて作れないの?」
源之助を膝の上に移しながら碧が尋ねた。
「痛みって言うのは身体の危険信号だからねぇ。
下手に止めると病気の発見が遅れかねないから、それこそ末期でもう死ぬ事が確定している人以外には使うと却ってヤバい可能性があるんで黒魔術系の痛み止めを販売するのは微妙かな」
それこそ、偏頭痛の痛みを和らげるとか言った一時的な痛み止めとしてなら良いと思うのだが、一度売り出した物の使い方はこちらでコントロール出来ない。
ヤバい痛みを慢性的に無視して無理をするのに使われたら、最終的には使用者の寿命を縮める事になってしまう。
「ホスピスとかでピンポイントに患者に売れるんだったら痛み止めのお守りも良さげだけど、下手したらお見舞いに来た人が買って帰る可能性があるから、ダメだね。
ちなみに、見方を変えて鬱予防になる様なお守りって出来ないかな?
現代病の一つだし、再発率も高いらしいから需要はありそうじゃない?」
碧が思い掛けない提案をしてきた。
鬱予防ねぇ。
「鬱にならなくても、鬱になる様な環境で働いていたら体が壊れるよ。
体と心のどっちが先に壊れるかって話なら、心がちょっと挫けるぐらいの方がまだマシなんじゃない?」
まあ、ストレスって免疫力を下げるらしいから健康も損なわれるかもしれないが、少なくとも自殺さえしなければ鬱になる方が体に負荷を掛けすぎて過労死するよりは良いだろう。
鬱も自殺リスクは高いから、どちらも微妙だが。
「こう、思い切りが良くなるとか、思考が狭窄しちゃったのをリセットする様なお守りは?
ブラックな会社で働いていて疲れすぎて思考が固まっちゃった時に『このままじゃあダメだ!』って思うのを助けるようなお守りがあったら良いと思うんだけど」
碧が更に提案する。
苦しんでいる人を助けたいのかな?
でもねぇ。
「心理的視野狭窄をリセットする様な術って流石に魔法陣では無いね。
直接会えばちょっと暗示をかけて思い込みを打ち消す事は可能だけど。
第一、ブラック企業にいる人は神社でお守りを買う時間的余裕は無いと思う」
「あ〜。
そうだねぇ。
だとしたら、やっぱり安眠と肩凝りでまずは試してみようか」
だね。